笹 川 ス ポ ー ツ 研 究 助 成 , 1 4 0 A 3 -0 1 2
中 学 校 体 育 授業 に お け る 教材 「 ハ イ ジ ャン ハ ー ド ル 走」 開 発
と そ の 有 効 性の 検 討
大塚光雄*
伊 坂 忠 夫 * 阿 久 津 千 尋 **
抄録
体育授業において運動の技能に関する指導内容を検討する場合,その運動種目にお
ける素材としての競技スポーツが参考とされる.近年,筆者らはスポーツバイオメ
カニクスでの成果をもとに,ハードル走の授業では何を運動 の技能に関する指導内
容とすべきかについて検討してきた.その結果,小学校高学年での授業では,ハー
ドルの上を低くまたぎ越す技能を身につけさせるのではなく,高く遠くへ跳び越え
る運動技能を身につけさせることが望ましいと結論付けた.本研究では,小学校高
学 年 の 次 の 発 育 段 階 で あ る 中 学 校 1・2 年 生 を 対 象 と し ,高 く 遠 く へ 跳 び 越 え る 技 能
を深めることをねらった教材ハイジャンハードル走を開発し,その教材を用いた授
業(実験的授業)と一般的なハードル走の教材ステップアップハードル走を用いた
授業(一般的授業)による学習成果と比較することで,その有効性を検討すること
を目的とした.高く遠くへ跳び越える技能を深める指導内容を展開した授業を実験
的授業とし,多くの指導参考書が紹介してきたハードルの上を低くまたぎ越すこと
を身につける指導内容を展開した授業を一般的授業とした.実験的授業,一般的授
業 は , そ れ ぞ れ 6 時 間 実 施 し , そ れ ぞ れ 26 名 , 36 名 の 女 子 生 徒 に 指 導 さ れ た . そ
の 結 果 ,以 下 の こ と が 明 ら か と な っ た . 1)実 験 群 は ,統 制 群 よ り も 記 録 が 有 意 に 短
縮 し た .2)実 験 群 の ハ ー ド リ ン グ 距 離 は ,単 元 後 有 意 に 増 加 し た .統 制 群 の ハ ー ド
リ ン グ 上 昇 高 は , 単 元 後 有 意 に 低 下 し て い た . 3) 一 般 的 授 業 で の 成 果 と 比 べ て ,
実験的授業では,意欲・関心・態度に対する自己評価や高く遠くへ跳び越える技能
の習熟に関する自己評価が高いことが明らかとなった.以上のことから,本研究で
取り扱った実験的授業では,元気よく高く遠くへ跳び越える基本的な運動能力を深
めながら記録を短縮することができ,且つ,技能が向上することへの実感 をもたせ
ることができることが示唆された.
キーワード:映像解析,女子生徒,体育授業,形成的授業評価
*
**
立命館大学スポーツ健康科学部
東大阪市立池島中学校
〒 525-8577
〒 579-8064
198 2014年度 笹川スポーツ研究助成
滋 賀 県 草 津 市 野 路 東 1-1-1
大 阪 府 東 大 阪 市 池 島 町 3-10-1
SASAKAWA SP ORTS RESEARCH GRANT , 1 4 0 A3 -0 1 2
Effect of “high jump hurdle” as teaching material to junior high
school students
Mitsuo Otsuka*
Tadao Isaka *
Chihiro Akutsu **
Abstract
* Ritsumeikan University, Faculty of Health and Sport Science 〒 525-8577 1-1-1, Nojih igashi,
Kusatsu -shi, Shiga, JP N
** Ikeshima Junior High School 〒 579-8064 3-10-1 Ikeshima-cho, Higashiosaka-shi, Osaka, JPN
2
2014年度 笹川スポーツ研究助成 199
一般
研究
奨励
研究
子ども・青少年スポーツの振興に関 する研究
Key Words: image analysis, female, physical education, formative evaluation
テーマ 3
Teaching content related to fostering motor skills in physical education has often
relied on competitive events as a material or activity.
Recently, sports
biomechanical studies by the present authors have found that spontaneity in
hurdle running for adult athletes as an original material may be developing
jumping toward the hurdle rather than developing stepping toward it. The
purpose of the present study was to clarify the effects of two methods of teaching
junior high school girls in a hurdle class. One method is new and emphasizes the
development of high, long jumping over hurdles as teaching/learning content. The
other is an established teaching method, which emphasizes the development of the
conventional motion to clear hurdles. More specifically, teaching material in the
first method, the “high jump hurdle,” teaches jumping over hurdles trailing the
back leg parallel to the trunk. This method was used for 26 girls (1st grade: 16
girls; 2nd grade: 10 girls; the experimental group). The teaching material in the
second method, the “step up hurdle,” teaches stepping over hurdles as l ow as
possible, trailing the back leg parallel to the ground. This method was used for 36
girls (1st grade: 14; 2nd grade: 22 girls; the control group). Each class did 6 days
of hurdle training. The main findings were as follows: 1) while the control gr oup
(both grades) did not significantly improve hurdle running time in a post -test,
there was a significant improvement in the experimental group. 2) While the
control group did not significantly improve horizontal distance from takeoff to
landing during hurdle clearance (that is, hurdling distance) in the posttest, there
was a significant improvement in the experimental group.
3) While the
experimental group did not significantly improve jumping height displacement
during hurdle clearance in the posttest , there was a significant improvement in 2nd
grade only in the control group. 4) A questionnaire showed that in 1st grade in the
experimental group, 87% of participants had progressed towards the objectives by
the posttest, while 36% of participants progr essed in the control group, showing a
significant different. These findings suggest that the new method for teaching
hurdling to girls as part of physical education is effective at improving hurdle
running time and developing the fundamental ability to re peat running and
jumping skills.
1.はじめに
体育授業では,発育段階に応じて,子どもたちを
望ましいとされる状態へ導くことが求められる.特
に運動の技能に関してその指導内容を検討する場
合,その運動種目における素材としての競技スポー
ツが参考とされる(岩田,1987)
.
ハードル走に例にとると,競技におけるハードル
走では,成人選手(Arnold,1993;Hay,1978)
,
小学生,中学生(Gavin,1977)を問わず,ハード
ルの遠くから踏み切り,ハードルの上すれすれを越
える技能が指導されている.そのため体育授業にお
いても,小学校の発育発達段階から,ハードルの遠
くで踏み切ることで,高く跳び上がらない技能が指
導内容として設定されている(細江,2006;地曳,
2003;能見,2001;清水,2008)
.しかし,一流ハ
ードル走選手の多くが,身長(平均値 1.81m)
(苅
部,2013)の 59%もの高さのハードル(0.107m)
を跳び越えている.またスポーツバイオメカニクス
の研究では,一流ハードル走選手のハードリング距
離は 3.59~3.96m であることが示されている(Coh,
2004;Fortune,1988;McDonald & Dapena,
1991;伊藤,2010)
.これらは,ハードル走の選手
は,高いハードルを“跳び越えている”ことを示唆
しており,ハードル走の指導内容はハードルを高く
遠くへ跳び越えることに設定することができる可
能性を示している.
このような背景から,これまで筆者らはスポーツ
バイオメカニクスでの成果をもとに,体育授業では
何を指導内容とすべきかについて検討してきた
(Otsuka et al., 2010;大塚ら,2011;大塚,2013)
.
すなわち,
小学校高学年を対象とした伊藤
(2009)
,
Otsuka et al.(2010)の研究では,ハードル走の記
録が良い者ほどハードルの遠くから踏み切ってい
るだけでなくハードルの遠くへ着地していること
が明らかにされた.この結果は,それまで体育授業
で指導されてきたハードルの近くに着地する指導
内容(土肥,2000;地曳,2003;清水,2008)を
支持しないものであった.また体育授業におけるハ
ードル走の記録は,ハードル滞空時間と関係がない
ことが明らかにされた(伊藤,2009;Otsuka et al.,
2010)
.通常,足が地面から離れてから着地するま
での間,身体に外力が加わらない.そのため,ハー
ドル滞空時間は,ハードルを越える際の身体の上下
動の大きさを示す.つまり,ハードルを越える際,
身体合成重心の上下動を抑え,ハードルの上すれす
れを越えても,記録が短縮するとは限らないことが
考えられる.このような知見のもと,筆者らは小学
校高学年を対象に,高く遠くへ跳び越えることをハ
3
200 2014年度 笹川スポーツ研究助成
ードル走の指導内容と設定し,従来の指導内容と比
較する実験的な授業においてその有効性を報告し
た(大塚ら,2011)
.
ところで,現行の学習指導要領(文部科学省,
2008a,2008b)から,指導内容の系統化・体系化
が強調されている.これまでの筆者らの高く遠くへ
跳び越える指導内容に関する研究では,小学校高学
年以降の発育段階を対象とし指導効果が検討され
ていない.伊藤(2010)によると,元気よくハード
ル走の単元を通じて,高く遠くへ跳び越える基本的
な運動能力を深める上では,自分の身長を考慮しな
がらも高いハードルにチャレンジすることが重要
であることが述べられている.つまり,中学校の発
育段階おいて,高いハードルを用いた授業を行う際,
それまでの発育段階では比較的必要とされていな
かった抜き脚の技能,すなわち,ハードルにぶつか
らない技能が必要となる.このように高いハードル
にぶつけずに,元気よく走・跳の運動能力を高める
上では,学習活動を促進する教材や教具の開発が求
められよう.
2.目的
そこで本研究では,中学校 1・2 年生を対象とし,
高く遠くへ跳び越える技能を深めることをねらっ
た教材・教具を開発し,その教材・教具を用いた授
業(以下,実験的授業とする)と一般的なハードル
走の教材を用いた授業(以下,一般的授業とする)
による学習成果と比較することで,その有効性を検
討することを目的とした.
3.方法
3.1.指導内容の定義
本研究では,まず基本的な技能学習をするため,
学習指導要領に記載されている「リズミカルな走り
から滑らかにハードルを越すこと」を指導内容とする
授業(以下,基本授業とする)を展開した(図 1)
.
基本授業では,後述するようにインターバルはどの
生徒も 3 歩で走ることができるものを準備し,
イン
ターバルを 3 歩で勢いよく走ることを指導した
(伊
藤,2010)
.その後,異なるクラスに対して,応用
的な技能学習として以下の2つの異なる指導内容に
よる授業(以下,応用授業とする)を展開した.
3.1.1. 実験的授業
伊藤(2010)の提案に基づいて,高く遠くへ跳び
越える技能を深める指導内容を展開した授業を実
験的授業とした.この指導内容の必要性を示唆する
スポーツバイオメカニクスの研究における知見と
塩ビハードルから改良されたものであり,水管作業
で使われる立バンドのねじを調節することで,ハー
ドルの高さを 35~110cm の間を 1mm 単位で調整
が可能であった(図 3)
.主な特徴としては,1 台あ
たり約 1,500 円と安価に作成することができる,ハ
ードルに接触しても痛くない,があげられる. 本
実験では,すべての実験的・一般的授業ともこのハ
ードル高可変式塩ビハードルを使用した.
して,競技選手はハードルを跳び越すこと(Obens,
1985;森田ら,1994;伊藤・市川,1999)
,抜き脚
を体幹に対して平行にする縦抜き(伊藤,2009,
2010)
,があげられ,これらを実験的授業での具体
的な指導内容とした.
記録測定
1回目
実験的授業
記録測定
2回目
記録測定
1回目
一般的授業
記録測定
2回目
基本授業
2時間
4時間
基本授業
応用授業
この高く遠くへ跳び越える技能を深めるため,教
材「ハイジャンハードル走」を開発した.この教材
での運動課題は,3 歩のリズムでできるだけ高い高
さに設定した3台のハードルを倒さずに跳び続ける
ことができるか,であった.本実験的授業では,3
台のハードルの高さを 60,65,70,75,80,85,
90cm に設定した合計 6 コース分のハイジャンハー
ドル走にチャレンジさせた(図 2)
.いずれコース
のインターバルは,全員が 3 歩で走ることができる
5.0m に設定した.ハイジャンハードル走での指導
では,できる限り力強く踏み切ること,ハードルの
上を越える際,リード脚や抜き脚がハードルにぶつ
からないよう全身でバランスを取り,その後の着地
からすぐに走り出すことを補助的に指導した.抜き
脚に関する指導では,事前に和式便所座りによる縦
抜き指導を行った(伊藤,2010;大塚,2013)
.
3.1.2.一般的授業
生徒の記録の短縮を目指し,多くの指導参考書が
紹介してきたハードルの上を低くまたぎ越すこと
を身につける指導内容を展開した授業を一般的授
業とした.すなわち,具体的な指導内容はハードル
をまたぎ越すこと(細江,2006;地曳,2003;能
見,2001;清水,2008)
,抜き脚を地面に対して平
行にする横抜き(松本,2005;清水,2008;大貫,
2008)
.このハードルの上を低くまたぎ越す技能は,
中学 3 年生,高校入学年次での技能目標として示さ
れている(文部科学省,2008b,2009)
.
このハードルの上を低くまたぎ越す技能を身に
付けるため,教材「ステップアップハードル走」を
用いた.これは,比較的低いハードルを越えること
を経験した後,競走で利用する 70cm の高さのハー
ドルでも低くまたぎ越すことをねらったものであ
った.この時,ハードルの高さを 45, 50, 55, 60, 65,
70cm に設定した 3 台のハードルをそれぞれ 1 コー
ス用意した.
3.2.被験者
被験者は,大阪府の公立中学校 1 校の中学 1・2
年生の女子生徒 62 名(1 年生 30 名,2 年生 32 名)
である.被験者は,表 1 に示す通り,実験的授業を
展開する実験群 26 名と,一般的授業を展開する統
制群 36 名に分けた.
3.3.実験手順
基本授業,応用授業は週 3 回計 6 時間の単元計
図 2 教材「ハイジャンハードル走」に取り組む中
学 1 年生.この生徒は,高さ 90cm に設定したハー
ドルを倒さずに跳び越えることにチャレンジして
いた.
このハイジャンハードル走での学習活動を促進
させるため,教具「ハードル高可変式塩ビハードル」
を自作した.これは,阿久津ら(2012)が提案した
4
2014年度 笹川スポーツ研究助成 201
一般
研究
奨励
研究
子ども・青少年スポーツの振興に関 する研究
図 3 ハイジャンハードル走で用いた教具「ハード
ル高可変式塩ビハードル.a)立バンド.右側のねじ
を調節することで高さを調整した.b)立バンドのね
じの調節.c)発泡スチロールをまいた塩ビパイクに
立バンドを差し込んでハードルを立て,ぶつけても
痛くない,わずかな外力でもハードルのバーが落ち
るようにして,安全性を確保した.
テーマ 3
図 1 基本授業・応用授業の手順
画で行い,図 1 で示す手順で行った.
表 4 に示す評価基準を求めた(国立教育政策研究所,
2011)
.
表 1 被験者の特徴
表 3,表 4 はそれぞれ実験的授業の単元計画,一
般的授業の単元計画を示したものである.生徒の成
績評価は,被験校の年間カリキュラム計画に沿って
表 5 で示した評価項目の中から選択し,ハードル走
の授業に相応しい形に変更することで評価の重点
化した.評価の重点化に関しては,表 3,表 4 の下
段に示した通りである.
基本授業,応用授業とも,各時間の後半に生徒同
本研究の授業は,8 年に亘る専門的なハードル走
士で競い合う競走をさせた.その際,多くの生徒が
の競技歴をもつ保健体育科女性教諭 1 名(教員歴 2
3 歩で走ることができるように,6 種類のコースを
年目)が行い,体育系学部の男性大学教員 1 名(ハ
用意した(図 4)
ードル走の競技歴 14 年;教員歴 8 年目)が支援を
.そして,生徒に各自の能力や課
するチームティーチングの指導方式をとった.
題に応じたインターバルを任意で選択させた後,
40m ハードル走の記録を授業 3,6 日目で測定した. 3.4.撮影と分析
ゴール地点側方からビデオカメラ
それぞれの記録を単元前後の記録とし,記録の変化,
画像分析結果から各応用授業の有効性を検討した. (HDR-CX170;Sony 社製)を用いて,スタート
の瞬間からゴールの瞬間までの動作を撮影し,ハー
ドル走の記録(以下,記録と略す)を求めた.
ハードル走の記録測定時に,2 台目のハードルの
左側方 30m 地点に設置した 1 台のビデオカメラ
(GC-PX1,JVC 社製)を用いて,生徒が ハード
ルを越える動作を毎秒 300 コマで撮影した.得ら
れた画像をもとにハードルを基点に,ハードルを越
え際の踏み切り時のつま先から着地時のつま先ま
での水平距離を実長換算で算出し,ハードリング距
離を求めた.ハードルを越える際に空中にジャンプ
していたハードリング滞空時間 Tair[秒]を求め,物
質の落下距離を求める式を応用し,ハードリング上
昇高 h を算出した.
図 4 競走時のコース設定.生徒が各コース間を移
動できる通路(幅 1.25m)を用意した.
表 2 は,実験的授業と一般的授業における単元の
観点別目標を示したものである.意欲・関心・態度,
思考・判断,知識・理解の観点での目標は,両授業
とも同じとした.運動の技能においては,基本授業
では両授業とも同じ目標を設定し,応用授業では各
授業で異なる目標を設定した.この目標をもとに,
h[cm]=gTair2/8×100
表 2 単元の観点別目標
5
202 2014年度 笹川スポーツ研究助成
4.結果および考察
4.1.記録の変化
1,2 年生における実験群の記録は,単元後で有
意に短縮していた(P < 0.05,図 5)
.それに対して,
1,2 年生における統制群の記録は,単元後で有意
に短縮しなかった.小学校高学年を対象にした研究
では,従来の指導法であっても記録が有意に増加し
ていたことが報告されている(大塚ら,2011)
.こ
れは,本研究結果と異なることを示している.つま
り,中学校の発達段階では,小学校の発達段階と比
べて,指導内容の違いが記録の変化量に与える影響
が大きいことが示唆された.
図 5 単元前後における 40m ハードル走の記録.
#: P < 0.05.
6
2014年度 笹川スポーツ研究助成 203
一般
研究
奨励
研究
子ども・青少年スポーツの振興に関 する研究
4.2.ハードルを越える動作
1,
2 年生における実験群のハードリング距離は,
単元後で有意に増加していた(P < 0.05,図 6)
.そ
れに対して,1,2 年生における統制群のハードリ
ング距離は,単元後で有意に変化しなかった.1,2
年生における実験群のハードリング上昇高,1 年生
における統制群のハードリング上昇高は,単元後で
有意に変化しなかった(P < 0.05,図 7)
.それに対
して,2 年生における統制群のハードリング上昇高
は,単元後で有意に低下していた.これらの結果は,
それぞれの指導内容がねらいとした技能を身につ
けることができたといえる.
ハードル上昇高とは,身体合成重心の鉛直上方向
への変位と関係するものであるため,直接,身体合
成重心の水平方向への速度と関係するものではな
い.本研究結果から,統制群は,身体合成重心の上
下動を有意に抑えながら,単元前と同じハードリン
グ距離を取得するため,水平方向に速い水平速度で
跳び越えていたことが示唆された.しかし,統制群
の記録が単元後に有意に短縮しなかった.学習指導
要領(2008b,2009)では,ハードルの上を低くまた
ぎ越す技能は,中学 3 年次以降で身につけるものと
して取り扱われている.今後,さらに発育段階の進
んだ生徒を対象とした研究が求められるが,本研究
結果は,学習指導要領(2009)が示すように,小学
校,中学 1・2 年生を対象にまたぎ越す技能を身に
つけさせることは指導しなくてよいことが示唆さ
れた.
4.3.生徒の主観的授業評価
高橋ら(1993)の形成的授業評価法を用いた結果,
⑤「楽しかったですか」の問いに対して,実験群の
1 年生が「そう思う」と回答した生徒の割合(93%)
は,統制群の 1 年生での割合(64%)よりも有意に
高かった(図 8)
.これは,高く遠くへ跳び越える
指導内容は,低くまたぎ越す指導内容よりも,意
欲・関心・態度の目標を達成しやすいことを示唆す
るものである.
応用授業における各指導内容の授業評価をする
⑫では,実験群の 1 年生(
「そう思う」と答えた生
徒の割合:87%)は,統制群の 1 年生(同:36%)
より有意に高い得点を付けていた.実験群での教材
ハイジャンハードル走は,ハードルのバーが倒れた
か,倒れていないかで自身の技能を客観的に自己評
価することができる場面が多く観察された.
Shmidt(1993)によると,自身の感覚だけで運動
制御行う内在的フィードバックを用いるよりも,外
部情報を用いて運動制御を修正する外在的フィー
バックを用いる方が学習効果は高いと指摘してい
る.本授業では,教具,ハードル高可変式塩ビハー
テーマ 3
ここで,g は重力加速度 9.81[m/s2]を表す.
3.5.生徒の主観的授業評価
両授業による生徒の主観的な学習成果を調べるた
め,①から⑨の項目では,高橋ら(2003)の形成的
授業評価法を用いた.⑩の項目では「ハードルを越
えることが怖かったですか」
,⑪の項目では学習指
導要領(2008b)の技能目標である「ハードルをリ
ズミカルに滑らかに越えることができましたか」
,
⑫の項目では,実験・一般的授業での指導内容に対
する評価項目として,実験群に対して「高く遠くへ
跳び越えることができましたか」
,統制群に対して
「ハードルの上を低くまたぎ越すことができまし
たか」を用意することで,ハードル走の授業に相応
し授業評価法を追加した.
そして授業 6 日目の終了
直後で生徒にこれら 12 項目から成る授業評価法を
配布し,それぞれの質問項目に「そう思う:3」
「ど
ちらでもない:2」
「そう思わない:1」の 3 件法で
評定させた.
3.6.統計処理
群内における単元前後の差の検定では,対応のあ
るサンプルの T 検定を用いた.形成的授業評価法
の群間の比較では,χ2 検定を用いた.いずれも有
意水準は 5% とした.
204 2014年度 笹川スポーツ研究助成
表 5 評定基準の設定
運動への
関心・意欲・態度
運動についての
思考・判断
運動の技能
運動についての
知識・理解
①陸上競技の学習に積
極的に取り組もうと
している
①技術を身に付けるた
め運動の行い方のポ
イントをみつけてい
る
・ハードル走では,リズ
ミカルな走りから滑
らかにハードルを越
すことができる
①陸上競技の特性や成
り立ちについて,学習
した具体例を挙げて
いる
②勝敗などを認め,ルー
ルやマナーを守ろう ②課題に応じた練習方
としている
法を選んでいる
③分担した役割を果た
そうとしている
④仲間の学習を援助し
ようとしている
⑤健康・安全に留意して
いる
③仲間と協力する場面
で,分担した役割に応
じた活動の仕方をみ
つけている
②技術の名称や行い方
について,学習した具
体例を挙げている
③陸上競技に関連して
高まる体力について,
学習した具体例を挙
げている
④学習した安全上の留
意点を他の練習や競
争場面に当てはめて
いる
図 7 単元前後のハードリング上昇高.#: P < 0.05.
ドルを用いることで,高いハードル高にも安全にチ
ャレンジさせることができ,運動課題に失敗した際,
ハードルのバーが地面に落ちるフィードバックが
なされていた.つまり,本研究において,実験群が
統制群よりも指導内容に対して高い主観評価をし
ていたのは,自身の動作に対する感覚評価だけでな
く,ハードル高可変式塩ビハードルによる外在的フ
ィードバックがあったためと推察される.
5.まとめ
本研究の目的は,中学校女子 1・2 年生を対象と
し,高く遠くへ跳び越える技能を深める手段とする
教材,教具を開発し,その教材,教具を用いた実験
的授業と一般的授業による学習成果と比べること
図 8 単元後の 1 年生(上段)
,2 年生(下段)のア
ンケート調査結果.いずれも「そう思う」と答えた
生徒の全体に対する割合の値を示す.#: P < 0.05.
8
2014年度 笹川スポーツ研究助成 205
一般
研究
奨励
研究
子ども・青少年スポーツの振興に関 する研究
図 6 単元前後のハードリング距離.#: P < 0.05.
テーマ 3
でその有効性を検討することを目的とした.その結
果,以下のことが明らかとなった.
①実験群は,統制群よりも記録が有意に短縮した.
②実験群のハードリング距離は,単元後有意に増加
した.統制群のハードリング上昇高は,単元後有
意に低下していた.つまり,実験的授業では,高
く遠くへ跳び越える基本的な運動能力が身につ
き,一般的授業では,低くまたぎ越す運動能力が
身につくことが示唆された.
③一般的授業での成果と比べて,実験的授業では,
意欲・関心・態度に対する自己評価や高く遠くへ
跳び越える技能の習熟に関する自己評価が高い
ことが明らかとなった.これは,本研究にて開発
した教具,ハードル高可変式塩ビハードルの効果
であることが推察された.
以上のことから,本研究で開発した教材「ハイジ
ャンハードル走」やその教具を用いた実験的授業で
は,元気よく高く遠くへ跳び越える基本的な運動能
力を深めながら記録を短縮することができ,且つ,
技能が向上することへの実感をもたせることがで
きることが示唆された.
参考文献
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この研究は笹川スポーツ研究助成を受けて実施し
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研究成果