(加速器質量分析法)を利用した放射線測定によら
ない放射性同位元素測定法の記述もある。
応用編では,環境分析,地球科学,宇宙科学,海
洋科学,人工有機化合物,製品分析,医療,それぞ
れの分野への応用に関する詳細な解説がなされてい
る。例えば,海洋科学の研究においては,軽い元素
である酸素や水素の同位体効果が大きいことから,
同位体環境分析
海洋表層水中で安定同位体の水分子をトレーサとし
て利用することができ,海洋における生物・物理・
馬淵久夫,宮崎 章,山下信義 編
化学過程の寄与を定量的に分析することができる。
トピックスでは,環境汚染物質分析と食品産地の
本誌の読者には,普段
トレーサビリティへの応用の 2 つについて述べられ
アイソトープと呼ばれる
ている。特に,現在の日本では,“同位体”と“環
ラジオアイソトープすな
境汚染”の 2 つの言葉から,
“東京電力
(株)福島第
わ ち 放 射 性 同 位 体( 以
一原子力発電所事故による RI の環境漏出”を連想
下,RI と 記 す ) を 日 常
することは避けられない。そのため,いわゆる環境
的に取り扱っている方が
放射能と呼ばれる人工起源の RI と併せて,その由
多 い だ ろ う。RI の 分 析
来,飛散や移行,初期段階での測定結果が 1 つの章
は,様々な研究領域で有
にまとめられている。事故当時の環境への放出,そ
効な研究手法の 1 つであ
して環境中での移行過程の解明が求められており,
る。その一方で,環境科
今後の研究の進展を着目していく必要があるだろ
学や地球科学の研究領域では,RI のみならず安定
う。また,放射線被ばくのリスク評価とそのために
同位体の動態分析も手法としてメジャーである。RI
必要な規制科学の考え方についても 1 つの章立てと
の定量分析では,放出される放射線を検出すること
なっており,化学物質リスク評価の枠組みと整合性
で,そこにある RI の数を算出することはご存じで
がある LNT(しきい値なし直線)仮説を,放射線
あろう。では,放射線を出さず化学的挙動が同じ安
防護に適用する際の考え方についてまとめられてい
定同位体の場合には,同位体ごとをどう分離して,
る。その他,環境汚染物質分析への応用として,鉛
どう測定して,どう定量すればよいのかというイメ
による人体汚染やダイオキシン・環境ホルモン研究
ージはつかみにくいかもしれない。本書を読めば,
についてもまとめられている。
それを理解することができる。本書は,15 章から
まえがきによると,本書は企画段階では理系の大
成り,基礎編,応用編,トピックスの 3 つに大別さ
学生をターゲットと想定していたが,大学院生や研
れている。
究者,技術者向けに仕上がったとのことである。い
基礎編では,同位体についてその基礎となる原子
ずれにせよ非常に優れた教科書であることは間違い
核の安定性や特性から,分析装置及び分析手法につ
ないので,関連する分野に身を置く本誌の読者に自
いて述べられている。もちろん,本誌読者になじみ
信を持って勧められる 1 冊である。
の深い,不安定な同位体である RI の測定装置につ
(桧垣正吾 東京大学アイソトープ総合センター)
いても記されている。安定同位体の分析装置として
最も広く用いられている ICP-MS(誘導結合プラズ
マ質量分析法)については,装置の構成から原理に
(ISBN978─4─621─08677─3,A 5 判 352 頁,定価本体
4,500 円,丸善出版
(株), 03─3512─3256,2013 年)
至るまで特に詳細に記述されている。また,AMS
Isotope News 2014 年 1 月号 No.717
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同位体環境分析(馬淵久夫,宮崎 章,山下信義 編)