岩獣会報 (Iwate Vet.), Vol. 40 (№ 1), 20−22 (2014).
臨床レポート
猫の胆管肝炎の一例
小川
要
浩也
約
病理学的にリンパ球性胆管肝炎と診断された雑種雌猫, 4歳の症例について, 免疫抑制剤による治療を施し
たところ, 臨床症状が回復し, 良好に経過している.
キーワード:猫, リンパ球性胆管肝炎, 免疫抑制剤
胆管肝炎は, 長年にわたり明確な分類がなされてい
(表). 総白血球数が軽度上昇し, 桿状好中球が出現し
なかったが, 現在ではリンパ球性, 好中球性, 肝吸虫
た. 生化学検査ではBUNの低下, AST, ALT, TBIL,
による慢性の3分類とされている [1]. これらのうち,
TCHO, TGなどの上昇が認められた. 膵炎や肝・胆
リンパ球性胆管肝炎は, 門脈内および胆管周囲におけ
道系疾患を疑い腹部エコー検査を行ったが異常は確認
るリンパ球主体の細胞浸潤といった病理組織学的所見
できなかった. 治療として, 乳酸加リンゲル液にAB
が特徴とされ, ペルシャ猫において高い発生率がみら
PC, ビタミン群複合剤を加え輸液した. 翌日も状態
れたとの報告もある [2]. 猫の胆管肝炎という用語は,
に変化は見られなかったため, 前述の輸液に加え, ファ
主に胆道系の疾患であるとのことでWSAVAより胆管
モチジン, マロピタント, オルビフロキサシンの投与
炎という用語の方が適切であるという提案がなされた
を行った. 治療を4日間連日行い, 状態は改善した.
た [3]. しかし本稿は一般的に普及している胆管肝炎
という用語を用いることとした.
初診時から10カ月後に再び, 元気消失と食欲不振の
主訴により来院した. 肝酵素の上昇が認めたれたため
今回, 元気消失, 嘔吐, 軟便の症状を示した雑種猫
(表), 前回と同様の治療を5日間継続したところ好転
の肝生検を実施し, リンパ球性胆管肝炎と診断された
した. さらに約1カ月後, 元気消失と食欲不振で再び
症例に遭遇したので, その概要を報告する.
来院した. 腹部エコー検査で異常は確認できず. 岩手
大学に診察を依頼した.
症
例
岩手大学においても肝酵素の高値が認められ, レン
症例は雑種猫, 4歳, メス. 食欲不振や元気消失を
トゲン検査では肝腫大が確認された. 腹部エコー検査
主訴に来院した. 飼主は約2カ月前に当市に転居して
では肝臓尾側にやや丸みを帯びた葉を認めた. その他
きた. 既往歴としては1歳の頃より嘔吐と黄疸を伴う
の異常所見は認められなかった. 6日後に開腹による
肝酵素の上昇がしばしば認められたので, ウルソデス
肝生検を実施することとし, 当院で輸液を主とする前
オキシコール酸を長期間継続投与されたが肝酵素は高
回と同様の治療を行った.
値を維持し, エコー検査では泥胆症が認められた.
試験開腹では内側左葉, 内側右葉および大網に結節
が付着しており, 結節部を生検材料とし, 10%ホルマ
治療および経過
リンで固定した後に病理検査を行った.
初診時体温は39.4℃で, 軟便の排泄が認められた.
病理組織検査所見は, 肝細胞は水腫様変性およびグ
アンピシリンNa (ABPC) を投与するも翌日には嘔
リコーゲン変性, 中間帯から中心静脈を中心とした類
吐が認められるようになったため, 血液検査を行った
洞の拡張が確認された (図1). また, 点在性に小葉
遠野支会
とおの動物クリニック
〒028-0541 岩手県遠野市松崎町白岩17-78-3
― 20 ―
表1
実
赤血球数
総白血球数
桿状好中球
分葉好中球
リンパ球
単球
好酸球
施
日
血液検査結果
初 診 日
(×104/μl)
(×102/μl)
(×102/μl)
(×102/μl)
(×102/μl)
(×102/μl)
(×102/μl)
初診日10カ月後
免 疫 抑 制 療 法 第 20病 日
845
169
6.9
111.5
43.9
5.1
1.7
802
301
6.02
195.65
81.27
3.01
15.05
11.9
37
8.1
27
27
1.5
234
1093
257
3.1
0.2
7.7
3.4
162
366
764
HGB
HT
(g/dl)
(%)
BUN
CRE
AST
ALT
ALP
GGT
TBIL
TP
ALB
GLU
TCHO
TG
(mg/dl)
(mg/dl)
(IU/l)
(IU/l)
(IU/l)
(IU/l)
(mg/dl)
(g/dl)
(g/dl)
(mg/dl)
(mg/dl)
(mg/dl)
13.3
1.1
315
1000以上
43
5
1.2
9.2
2.3
113
268
109
Na
K
Cl
(mEq/L)
(mEq/L)
(mEq/L)
154
4.3
118
1000以上
1000以上
56
8
3.5
117
198
間領域, 肝内胆管周囲を中心としてリンパ球を主体と
した炎症細胞浸潤が認められた (図2). 類洞の拡張
が見られる部位にも軽度のリンパ球が認められ, 同部
位には肝細胞の脱落傾向が認められた. 病態としては
典型的ではないものの, 軽度のリンパ球性胆管炎と判
断された. 大網にみられた結節は副脾であり, 顕著な
髄外造血と濾胞の過形成を呈しており, 強い反応性変
化が認められた (図3).
図2
図1
図3
肝臓, HE染色, 中拡大像
― 21 ―
肝臓, HE染色, 中拡大像
大網結節, HE染色, 低倍像
病理検査の結果をうけ, 免疫抑制剤の長期投与を主
WASAVA Liver Standardization Group ;
とする以下の治療を開始した. 免疫抑制治療開始日を
Standards for Clinical and Histological Diagnosis
第1病日とすると, 第1∼第25病日は, プレドニゾロ
of Canine and Feline Liver Diseases. Saunders,
61-76 (2006)
ン2mg/kg投与, 第26∼40病日にはプレドニゾロン
1.5mg/kg投与, 第41∼70病日はプレドニゾロン1mg
[4] Weiss DJ, Gagne JM, Armstrong PJ:Relationship
/kgとシクロスポリン5mg/kgを併用し投与, 第71∼
between inflammatory hepatic disease and
第100病日はプレドニゾロン0.5mg/kgを一日おきに
inflammatory bowel disease, pancreatitis, and
投与, 併せてシクロスポリン5mg/kgを連日投与,
nephritis in cats. J Am Vet Med Assoc, 209,
第101∼第160病日はプレドニゾロン0.5mg/kgとシク
1114-1116 (1996)
ロスポリン5mg/kgを各一日おきに投与, 第161以降
はシクロスポリン5mg/kgのみを隔日投与し, 現在
も投与を継続している.
第20病日に血液検査を行ったところ, AST, TBIL
は減少したが, ALP, TCHO, TGは上昇が確認され
た.
現在のところ第180病日が経過したが, 状態は良好
に保たれている.
考
察
リンパ球性胆管肝炎は猫では一般的とされているが,
その原因はよくわかっていない. この疾患は通常ゆっ
くりと進行し, きわめて慢性的な疾患として考えられ
ている. また, 胆管肝炎に罹患した猫では83%がIBD
を併発しており, 50%が膵炎を併発しているとの報告
がり, これが猫の三臓器炎という概念の発端となって
いる [4]. 今回の症例では膵臓や消化管については精
査していないものの, それらの疾患についても十分注
意しながら経過を見守っていく必要があると思われる.
更に大網に副脾も認められているため, 血液疾患にも
注意していく必要があると思われた.
現在シクロスポリン投与による治療を行っているも
のの, リンパ球性胆管肝炎において, その投与量・頻
度・期間について明確な指針は示されていない. 今後,
臨床症状に合わせ, 適時治療内容を見直していく必要
もあるものと思われる.
引用文献
[1] WSAVA Liver Standardization Group:WSAVA
Standards for Clinical and Histological Diagnosis
of Canine and Feline Liver Diseases, 68-71
(2006)
[2] Lucke VM, Davies JD:Progressive lymphocytic
cholangitis in the cat. J Small Anim Pract,
25, 249-260 (1984)
[3] Van den TSGAM, Cullen JM, Twedt DC,
et al.:Morphological classification of biliary
disorders of the canine and feline liver. In:
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猫の胆管肝炎の一例