法務事務次官賞
「一緒に生きる大切さ」を学んで
栃木県・白鷗大学足利中学校 3年
森 彩花(もり あやか)
私は昨年の夏,職場体験の授業で,三日間医療福祉施設を訪れた。看護部長
さんから事前に,「重度の障害を持った人が多いから,驚かないでね。」と言わ
れた。私は母の仕事柄小さいころからよく特別支援学校の行事に参加していた
ので,障害を持つ人を見るのは初めてではない,平気だと思っていた。しかし,
初日に病棟のドアを開けたとたん,正直,心臓がドキリと鳴った。みんな本当
に重い障害を抱えている。車いすに乗ったりベッドに横たわる人たちは,首や
手足が曲がったまま自分の身体も十分に動かす事が出来ない。話す事も出来な
い。食事も排泄も,すべて手伝ってもらわなければならない。床をはいながら
移動している人もいる。機械を使わなければ,自分で呼吸をすることもできな
い子どもがいると師長さんが教えてくれた。
私の最初の感想は「かわいそうだな」ということである。施設の中で一生を
過ごし,私たちのように,食べたいものを食べることも,欲しいものを買って
もらうことも,行きたいところに出かけることもできない。同時に,私は三日
間,この人たちをどうやって『お世話』すればよいのだろうかと考えてしまっ
た。
しかし,その気持ちは間違いである事が体験から感じられた。何よりも,病
棟自体が施設という雰囲気ではなく,きれいで明るい。季節に合わせた色とり
どりの飾りが,壁に飾られたり,ベッドからでも見えるように天井からつり下
げられている。そして,いつも気持ちが弾むような音楽や職員さんたちの明る
い声で満たされていて,そこにいるだけでも楽しい気分になった。
ふれあいタイムでは,重い障害を持った人でも,動かせる身体の部分に軽い
鈴やタンバリンを付けて一緒に楽しんでいる。顔の表情や発声,目の動きでし
か表せない人からも,楽しくて仕方のない様子が伝わってきた。
食事では,栄養チューブに頼らないで,少しでも自分の口から食べられるよ
うに,刻んだりミキサーにかけて形態が工夫されている。感動したのは,すり
身にした魚を押し型を使ってかわいい魚の形にしたり,ドロドロにした野菜を
花の形に固め直していることだ。四季折々の行事では,お楽しみメニューもあ
る。
『食べる』という大切な楽しみを雰囲気からでも味わってほしくて,栄養士
さんが苦労して考えたのだと教えてもらった。
短い時間,病棟のテラスしかお散歩ができなくても,それを一日の楽しみに
している人がいる。酸素吸入をしながら医師が付き添って,桜を見に行ったり,
遠足に行ったり,ディズニーランドに行く人もいる。職員さんが共通して考え
ているのは,
『人間として,自分たちと同じように楽しい人生を送る』というこ
とだそうだ。だから,病棟では,患者ではなく利用者と呼ぶ。患っている人で
はなく,施設や職員を『利用』しながら『生きる』人たちだという意味がある
のだと思う。
体験初日の午後にはもう,私の考えは『お世話をする』のではなく,
『一緒に
楽しく過ごすこと』に変わった。車いすの人のそばに行き,目の高さにかがん
で大きな声で積極的に話しかけた。少しでも通じて喜んでくれると,私も楽し
くなった。ご飯の介助をする時も,嫌いなものでも少しでも食べてほしくて「
おいしいよ」と励ました。口に入れてくれるのがうれしかった。そして,一緒
に過ごし,楽しんだ三日間はあっという間に終わった。最後の日,別れを悲し
んでくれる人もいて,明日からもうここには来られないのだと思うと,さびし
くて仕方なかった。
『障害者の人権』という歴史を調べると,以前は『収容保護』が当然であっ
たが,
『障害者を排除することなく,障害をもっても健常者と均等に当たり前に
生活できるような社会こそがノーマルな社会である』という『ノーマライゼー
ション』という理念が提唱されてからは,大きく進歩した。
『生きる』というの
は,命あるものにとって当然の権利だ。しかし命があればよいというのではな
く,人間であるならば人間らしく,自立し充実した,楽しいものでなくては真
の人権保障とはいえない。私は施設で過ごした三日間,その心を学ぶことがで
きた。
それから一年,私は少しだけ成長し,以前なら恥ずかしくてできなかったこ
とが一つだけできた。それは,手押し車を持って駅の階段を昇るお年寄りに「
荷物を持ちましょうか。」と声をかけられたことだ。障害を持って自力では十分
にできない人に対しては,何でも手を貸してあげるのではなく,何をすればそ
の人が楽に行動する助けになるのかを考えて,優しい気持ちで接することが大
切なのだと感じた。
『生きる権利』を『楽しい人生を一緒に生きて行く権利』と
するために,これからも自分にできる役割を勇気を持って率先して果たし,共
に生きていきたいと考えている。
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