東海スポーツ傷害研究会会誌:Vol.32(Nov.2014)
膝蓋骨分裂骨片に対し反転骨移植による骨接合術を施行した 1 例
浜松市リハビリテーション病院 整形外科 安間久芳 高橋勇二 尾藤晴彦
聖隷浜松病院 スポーツ整形外科
小林良充 滝正徳 船越雄誠
【はじめに】
膝蓋骨の分裂骨片に対し,反転骨移植による骨接
合術を施行してサッカーに復帰した1例を経験した .
【症例】
患者:14 歳,中学2年生,男.
身長 178cm,体重 62kg.
サッカークラブチーム所属,ミッドフィルダー,U -
図 1:初診時画像 a.CT 像 b. 単純 X 線側面像
13 日本代表歴あり.
主訴:右膝痛
治療経過:膝蓋骨本体と骨片との境界部の形状から
既往歴,家族歴:特記事項なし.
保存的治療での骨癒合は容易でないと考えた.本人
現病歴:受診3カ月前にサッカーをしていて,特に
や家族は,今後この問題でサッカーを休止したくな
外傷なく右膝蓋部痛が出現した.近医外科を受診
いと強く希望し,骨接合術を選択した.
し安静にて数日で改善した.受診 2 日前,サッカー
手術は肘頭骨端線離開に対する反転骨移植に準
練習中に左足でキックしたところ右膝蓋部痛が再発
じた方法に中空スクリューと軟鋼線による固定を追
し競技続行困難となったため,当院を受診した.
加する方法を行った(図2).
初診時現症:右膝蓋骨下極部に圧痛を認めた.腫
脹や内出血斑はなかった.可動域制限もなく,膝
関節自動伸展は可能であった.
初診時画像所見:単純Ⅹ線や CT で膝蓋骨下極部
の分裂骨片を認めた.膝蓋骨本体と骨片の境界線
は比較的平滑で一部硬化像を認めた(図1).左膝
蓋骨の形態は特に異常はなかった.
図2:手術方法
a. 分裂部をまたいで近位を長く直方体の骨片を採取.
b. 骨片の近位と遠位を反転して,採取部に移植.
c. 中空スクリューで分裂骨片を固定し,スクリューの中を通し
た軟鋼線を膝蓋骨前面で横8の字に締結.
Key words:膝蓋骨(Patella),疲労骨折(Stress fracture)
,分裂膝蓋骨(Patella partita)
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東海スポーツ傷害研究会会誌:Vol.32(Nov.2014)
まず,分 裂部をまたぐ,縦 20mm× 横 10mm× 厚さ
るが,その鑑別は必ずしも容易ではない1).両者は
7mm の直方体の骨片を採取し,近位と遠位を反転し
全く異なるものではなく,成長期の脆弱な骨に生じ
て採取部に戻して移植した.その後,骨片遠位部か
る疲労骨折が分裂膝蓋骨形成の主因とする意見もあ
ら直径 3.0mm の中空スクリューを2本刺入し,スク
る2).
リュー内に直径 0.97mm の軟鋼線を通して横8の字
いずれにしろ,本症例で骨片切除した場合,骨片
に締結した.スクリューは逆ハの字形に刺入し,軟鋼
の位置や大きさから膝伸展機構や膝蓋大腿関節へ
線が骨片の中央付近で交差するようにした(図3).
の影響が危惧された.一方,単純な骨接合術では
骨癒合の遷延をきたす可能性があり,接合部の新鮮
化や骨移植の必要性を考えた.大須賀らは Saupe
Ⅱ型の分裂膝蓋骨に対し,他部位から骨採取するこ
となく分裂部をまたぐ直方体の骨ブロックを採取し
90 度回転して移植する方法を報告している3).
われわれは同様に患部の骨ブロックを利用した骨
移植と強固な内固定を組み合わせた本法を考案し
た.本法では他部位に侵襲を加えることなく骨移植
ができ,骨癒合を促進できる.
また,中空スクリュー
と軟鋼線による内固定法は,スクリューのみによる
図3:手術後単純 X 線像 a. 正面像 b. 側面像
固定よりも強固で,K-wire を使用する固定方法と異
なり軟部組織への障害がほとんどない4).そのため,
手術翌日から膝伸展装具装着下に部分荷重を開
抜釘前でも違和感なく運動可能である.本法は骨
始し,2 週間後から全荷重を許可した.6 週間後に
癒合の確実性を高め,早期競技復帰を可能とする
は,内固定剤による愁訴や可動域制限も消失し,ジ
有用な方法である.
ョギングを許可した.術後 4 カ月で制限なくサッカ
ーに復帰し,サッカーの公式戦がない時期となった
【文献】
術後8カ月で抜釘を施行した(図 4).
1)藤間保晶,石村雅男,幅田孝ほか.膝蓋骨疲労骨
折後の偽関節か分裂膝蓋骨分裂部の拡大かの
鑑別に難渋した 1 例.膝 2003;28:104-107.
2)Weaver,J.K.:Bipartite patellae as a cause
of disability in the athlete.Am.J.Sports
Med.1977;5:137-143.
3)大須賀友晃ほか:病巣部から採取した骨ブロッ
クを用いて骨接合術を行った二分膝蓋骨の1例.
JOSKAS,37:553-557,2012.
4)小林良充,小久保亜早子,仁瓶芳樹ほか.膝
図4:手術後 8 カ月,抜釘後画像
蓋骨横骨折に対する極細キャニュレイテッドスク
a. 3DCT 像 b. 単純 X 線側面像
リューを用いた鋼線引き寄せ締結法.関節外科
1994;13:499-503.
考察:本症例は明らかな外傷がなく発症し,当科受
診 3 カ月前の前医受診時の単純Ⅹ線像も確認するこ
とができたが分裂骨片が存在した.画像所見も新
鮮骨折とは考え難く,膝蓋骨下極部の疲労骨折や
分裂膝蓋骨(SaupeⅠ型)などの可能性が考えられ
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