特 集
提言 直ちに人種差別撤廃基本法整備を
院内集会主催者を代表して 師岡康子(外国人人権法連絡会、弁護士)
これまでのマイノリティ当事者からの報告で、日
本の人種差別の深刻な実態の一部が明らかになった。
真摯に取り組んでこなかった。
特に、ここ数年悪化したヘイト・スピーチ、ヘイト・
不十分というよりも、政府は
クライムの問題は、マイノリティに属する人びとの
これまで差別から意図的に目を背けてきたと言わざ
尊厳を傷つけるだけでなく、社会に差別と暴力を
るを得ない。
蔓延させ、マイノリティを黙らせ、社会から排除し、
たとえば、政府は2013年、人種差別撤廃委員会に
民主主義を破壊し、ひいては戦争やジェノサイドに
対し、3回目の報告書を提出したが、そこには13年
も突き進んで、国際社会へも大変な被害をもたらし
も前の、2000年に出した第1回目の報告書や2008年
かねない。
の第2回目の報告書からの引用が多用様されている。
このような日本における人種差別の一番の問題は、
その間、差別が悪化しているのにもかかわらず、何
国が人種差別問題の存在、あるいはその深刻さを正
の検討もしてこなかったことが明らかである。2014
面から認めることから逃げ、取り組まず、放置して
年の委員会の審査においても、何人もの委員からそ
いることである。
の不誠実さを指摘された。また、差別デモはここ数
人種差別問題は、歴史的、構造的な問題であり、
10
きたように、人種差別撤廃に
年大きな社会問題となり、京都朝鮮学校襲撃事件の
植民地支配をはじめとして、国の差別的政策に主要
刑事事件判決、奈良水平社前差別街宣民事事件判決
な原因がある。1965年に成立した人種差別撤廃条約
などの判決も相次いだのに、政府は、2013年1月提
自体、前文で、
「国際連合が植民地主義並びにこれ
出の報告書でも、2014年8月の同委員会の審査の場
に伴う隔離及び差別のあらゆる慣行(いかなる形態で
でも、「現在の日本が人種差別思想の流布や人種差
あるかいかなる場所に存在するかを問わない。)を非難してき
別の煽動が行われている状況にあるとは考えていな
たこと、並びに1960年12月14日の植民地及びその
い」と主張し、ヘイト・スピーチの蔓延から目を背
人民に対する独立の付与に関する宣言(国際連合総会
けていることがあらわになった。この言い回し自体、
決議第1514号(第15回会期)
)がこれらを速やかにかつ
無
2001年に政府が委員会に提出した、第1回の勧告に
条件に終了させる必要性を確認し及び厳粛に宣明し
対する反論の文書の中で使われたものであり、その
たことを考慮し」ており、植民地主義への反省の上
後何らの検討もせずに13年間も使いつづけている
に成り立っている。同条約は、国が人種差別撤廃に
のである。さらに、委員会の2014年の総括所見にお
責任を負うことを責務とし、同条約2条1項(c)では、
いても、政府が、前回2010年の委員会の勧告につい
「各締約国は、政府(国及び地方)の政策を再検討し及
て、あたかも勧告が存在しなかったの如くにほとん
び人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有す
ど触れておらず、勧告に取り組んでいないことが冒
るいかなる法令も改正し、廃止し又は無効にするた
頭から厳しく指摘された。さらには、3回の審査で
めに効果的な措置をとる。」として、国自身が人種
毎回、マイノリティの集団とその差別の状況につい
差別を生じさせてきた歴史的事実を踏まえ、自らの
て実態調査をするよう勧告されているが、国はそれ
政策を改める責務を課している。しかし、日本では、
を一切無視してきた。実態調査がなされず、差別の
現在も、朝鮮学校の高校無償化制度からの排除のよ
実態が国レベルで明らかにされておらず、人種差別
うに、国が公的、制度的に差別を行っている。国が
撤廃政策自体が策定されず、人種差別問題について
率先して、自らのこれまでの差別的な政策を反省し、
担当する省庁すらない。人種差別撤廃法制度の柱で
改めなければ、社会から差別がなくなるはずがない。
ある、人種差別禁止法もない。ヘイト・クライムや
日本は、国連の人種差別撤廃条約に1995年に加
ヘイト・スピーチを規制する法律もない。人種差別
盟し、今年で20年になるが、政府は、国連の人種差
撤廃のための教育プログラムもない。人権政策を監
別撤廃委員会の3回の審査の中で厳しく指摘されて
視し、推進するための、政府から独立した国内人権
IMADR通信 2015春 No.182
特 集
機関もない。国際人権基準の観点から締約国に住む
うヘイト・クライムも増えている。国際的にも、人
個人の救済を行う「個人通報制度」も一切受諾して
種差別撤廃条約に違反し、最低限の国際人権基準す
いない。すなわち、人種差別撤廃委員会を含む国連
ら満たさず、政府が自らの人種差別政策を改めず、
のすべての人権条約監視機関から再三指摘されてき
また、人種差別の実態から目を背けていることは許
たように、国際人権基準のもとめる人種差別撤廃法
されない。
制度がほとんど何もない状態である。これは、国際
的に比較してみても、非常に遅れた状態である。
私たち人種差別撤廃NGOネットワークに集まった
マイノリティの当事者団体とNGOは、政府と国会が
こ の よ う な 深 刻 な 状 態 が 続 い て き た が、2013
一丸となり、直ちに人種差別撤廃基本法を制定する
年、ヘイト・スピーチが日本ではじめて社会問題化
ことからはじめ、人種差別撤廃法制度を整備するこ
し、日本の国内外から批判が高まった。それを受け
とが急務であると強く訴える。
(もろおか やすこ)
て、2014年4月には、国会で、超党派の「人種差別
撤廃基本法を求める議員連盟」ができた。この「人
種差別撤廃基本法」とは、人種差別撤廃条約を基礎
に置き、まず国が人種差別撤廃に取り組む責任があ
ることを明確にし、人種差別が違法であることを宣
言し、かつ、差別の実態調査を行って人種差別撤廃
政策を策定する、一定の独立性がある機関を設置す
る理念法・組織法である。人種差別撤廃法制度がまっ
たくない現状からすれば、障害者差別に関する障害
者基本法や、女性差別に関する男女共同参画社会基
本法と同様に、基本法という枠組みを作ることは確
参議院議員会館で開催したストップ レイシズム ストップ ヘイト・スピーチ院内集会
実で大きな第一歩である。
他方、2014年8月には自民党に、翌9月には公明党
に、ヘイト・スピーチ問題対策プロジェクトチーム
が出来た。与党もこの問題を具体的に検討し始めた
ことは評価するが、これまでのところ、ヘイト・ス
ピーチを人種差別問題として位置づけておらず、表
現規制か否かとの問題に切り縮め、人種差別撤廃基
本法制定への態度が不明確である。
しかし、人種差別撤廃委員会などから勧告されて
いるように、小手先の現行法の運用の改善で解決す
る問題ではなく、国際人権基準に見合うよう、国が
責任をもって、人種差別撤廃法制度を整備すること
が急務である。ヘイト・スピーチ問題ひとつとって
も、現在焦点化している差別デモは、朝鮮人一般な
ど、不特定の集団に向けられている場合には合法で
あり、止めることはできない。また、デモ主催者ら
100 をこえる地方議会で政府への
「ヘイトスピーチ」対策意見書採択の動き
【府県】
(17)
北海道東北:福島県/岩手県
関東甲信越:長野県/神奈川県/山梨県
東海北陸 :富山県
近畿 :奈良県/和歌山県/京都府/兵庫県
中国 :鳥取県/広島県
四国 :高知県
九州 :福岡県/佐賀県/熊本県/大分県
【市区町村】
(86)
*は府県議会でも意見書が可決されているところ
〈北海道東北〉
-北海道(8)
:北斗市/留萌市/北広島市/仁木町/釧路市/室蘭市/余市町/深川市
-宮城県
(5)
:白石市/角田市/涌谷町/蔵王町/名取市
〈関東甲信越〉
-東京都
(12)
:国立市/葛飾区/東村山市/東久留米市/千代田区/立川市
三鷹市/調布市/清瀬市/小金井市/武蔵村山市/渋谷区
-神奈川県*
(2)
:川崎市/座間市
-千葉県
(6)
:市川市/習志野市/浦安市/茂原市/松戸市/船橋市
-茨城県:坂東市
-埼玉県
(7)
:宮代町/さいたま市/上尾市/久喜市/松伏町/幸手市/新座市
-長野県*
(8)
:須坂市/佐久市/塩尻市/安曇野市/東御市/飯綱町/飯田市/茅野市
-新潟県
(2)
:新潟市/上越市
〈東海北陸〉
-愛知県:名古屋市 -岐阜県:多治見市
-石川県
(2)
:七尾市/白山市
〈近畿〉
-京都府*
(4)
:向日市/京都市/長岡京市/宇治市
-大阪府
(9)
:堺市/枚方市/寝屋川市/泉大津市/泉佐野市/豊中市/箕面市/熊取町/藤井寺市
-兵庫県*:神戸市 -奈良県*
(3)
:三郷町/大和高田市/田原本町
-和歌山県*:橋本市
はマイノリティに属する人々を意図的に傷つけてお
〈中国〉
-鳥取県*
(2)
:鳥取市/米子市
り、一般的な啓発では対処が不可能である。
〈四国〉
-徳島県:美波町 -高知県*:土佐清水市
ヘイト・スピーチは拡大し、在日朝鮮人などのマ
イノリティへの差別感情が固定化し、拡大しつつあ
るのみならず、マイノリティへの物理的な暴力を伴
次号の特集:反差別の現場を走る世界のリーダーたち
(予定)
〈九州〉
-福岡県*
(6)
:北九州市/福岡市/大牟田市/行橋市/中間市/宗像市
-熊本県*
(2)
:熊本市/合志市
出典 地方議会でさらに広がる
「ヘイトスピーチ」
対策意見書採択の動き
http://matome.naver.jp/odai/2142570084674567401
IMADR通信 2015春 No.182
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