2 質点 4 自由度モデルを用いたガントリ型超精密位置決めステージの
機構と制御における同時最適化の基礎検討
関優志∗ ,藤本博志(横浜国立大学),原篤史,山中貴裕,佐伯和明(ニコン)
Basic Examination of Simultaneous Optimization in Mechanism and Control for Gantry-Type Precision Stage as
Two-Mass and Four-Degree-of-Freedom Model.
Yushi Seki∗ , Hiroshi Fujimoto (Yokohama National Univ.)
Atushi Hara, Takahiro Yamanaka, Kazuaki Saiki (Nikon)
Abstract
Generally, a gantry-type precision stage is designed so that the center of gravity can be driven by motors. However,
it is impossible to set the gap between the center of gravity and the drive point to be exactly zero in real process
of manufacture. The gap causes the resonance characteristic of the pitching direction. In this paper, a model with
two-mass and four-degree is defined for the stage with the gap. Then, the design optimization method of particular
parameter variations of the stage is proposed. Finally, simualtions and experiments with an experimental precision
stage are performed to show the advantages of the proposed optimization method.
キーワード:超精密位置決めステージ,同時最適化,モード分解,最適設計,2 慣性系,
(Precision stage, Simultaneous optimization, Mode decomposition, Optimal design, Two-mass system )
1.
はじめに
ガントリ型超精密位置決めステージとは液晶露光装置や
半導体露光装置等の可動部として用いられ,上軸の 1 軸ス
テージに対して,下軸が上軸に直交する構造となっており,
剛性を増すために下軸が 2 本のリニアガイドとなっている
ステージである。近年では,製造対象物の微細化に伴い精
度の向上を望まれている。また,液晶パネルの大型化に伴
い,大型化の一途をたどっている。
一般的に産業界において超精密位置決めステージを設計
する際,機構設計と制御設計は個々に行われているため,機
構設計されたものに対して制御設計を行うことで性能の向
上を図っている。しかし,製造物微細化に伴う厳しい要求
を満たし続ける場合に制御のみの性能向上では限界が見え
始めている (1) 。ステージ全体を一つの剛体として考え,ス
テージ全体の重心位置とリニアモータによる並進方向駆動
点を一致させるように取り付けるのが従来のステージ設計
の常識とされていた。しかし,実際のステージでは並進方
向駆動点とステージ全体の重心には,設計時の誤差や動作
環境などの様々な要因によってズレが生じている。また,液
晶露光装置などの大型ガントリステージは,大型であるた
め剛性 (バネ特性) が低下している。スループット向上のた
めに並進移動の大きな加減速を行うと,質点ごとのピッチ
ングによる共振が生じてしまうことが制御性能向上の問題
となっている。そこで本稿では,ガントリ型ステージを 2
質点 4 自由度としてモデル化を行い,同時最適化手法によ
る制御性能向上に対する最適設計の有効性を示す。
近年様々な分野において同時最適化の研究が進められて
おり,H∞ を用いた制御理論の構築 (5) や対象物の機構に対
する同時最適化が挙げられる (1) ∼ (6) 。本稿は後者の類であ
り,従来のプラントに対して制御の観点から特性を把握し,
数式化することで,パラメータの設計変更による制御性能
の向上について検証を行う。
2. モデル設計
従来は並進方向 (X 方向) 駆動点とステージ全体を 1 慣
性系とみなしたときの重心を一致させるように設計を行っ
ている。しかし,実際のステージでは並進方向駆動点とス
テージ全体の重心には様々な要因によってズレが生じてい
る。本稿では図 1 において,上側の質量 m にあたる部分を
テーブル部,下側の質量 M にあたる部分を駆動部,テー
ブル部と駆動部の接合点を O とする。静止時において並進
方向と垂直な方向に z 軸 (上向き正) を取り,駆動点と駆動
部重心との差を Lf とおき検証を行う。また,X 方向の並
進運動に対して,θ 方向の回転運動が質点ごとに生じるた
め,駆動部の重心 GM と z 軸との角度を θ1 ,テーブル部の
重心 Gm と θ1 軸との角度を θ2 とする。回転運動はステー
ジの上下に設置してある並進センサによって,並進方向の
駆動部重心位置を X1 ,X2 として観測している。実験用ナノ
ステージをプラントとした各パラメータを表 1 に示した。
〈2・1〉 運動方程式
図 1 のモデルから,運動方程式
を立てると (1) 式となる。
2
(M + m)ẍ + m[L1 θ¨1 cosθ1 − L1 θ˙1 sin θ1 + L2 (θ̈1 + θ̈2 )
· cos(θ1 + θ2 ) − L2 (θ˙1 + θ˙2 )2 sin(θ1 + θ2 )] + cx ẋ = F (1)
線形化するため,θ1 ,θ2 ≪1 とすると,cos θ ≃ 1,sin θ ≃ θ
となり,さらに θ˙2 ≃ 0 と仮定すると,x に関する運動方
程式は (2) 式となる。同様に θ1 ,θ2 に関する運動方程式は
1/6



























































図 1 ガントリ型ステージの 2 質点 4 自由度モデル
Fig. 1. Gantry-type stage as Two-mass Four-degree
model
a1 = M + m
a2 = m(L1 + L2 )
a3 = mL2
a4 = a2
a5 = IM + Im + m(L21 + L22 + 2L1 L2 )
a6 = Im + mL22 + mL1 L2
a7 = a3
· · · · · (8)
a8 = Im + mL22
b 1 = cx
b2 = µθ
b3 = 2cl2
c1 = 2kl2 − 2m · g(L1 + L2 )
c2 = −m · g · L2
c3 = kθ − m · g · L2
以上を連立して解くことで伝達関数が以下のようになる。
表 1 ガントリ型ステージの 2 質点 4 自由度モデル
Table 1. Gantry-type stage as Two-mass Four-degree
model
De (s) = {(a1 a5 − a2 a4 )a8 + (a2 a6 − a3 a5 )a7 − a1 a26
+a3 a4 a6 }s6 + {(a1 a8 − a3 a7 )b3 + (a1 a5 − a2 a4 )b2 + (a5 a8
テーブル部質量
m
5.2
kg
−a26 )b1 }s5 + {(a1 a5 − a2 a4 )c3 + (a2 a7 − 2a1 a6 + a3 a4 )c2
駆動部質量
M
7.8
kg
+(a1 a8 − a3 a7 )c1 + (a1 b2 + a8 b1 )b3 + a5 b1 b2 }s4
推力粘性定数
Cx
4.8
N·s/m
接続部のねじれダンピング定数
µθ
0.21
N·m·s
バネ定数
k
5.5
N/µm
N·s/µm
粘性定数
C
2.2×102
接続部のねじれバネ定数
kθ
9.8×102
N·m/rad
テーブル部のイナーシャ
Im
9.1×10−3
kg·m2
kg·m2
駆動部のイナーシャ
IM
5.1×10−2
GM から接続点までの距離
L1
35
mm
Gm から接続点までの距離
L2
57
mm
+{(a1 b3 + a5 b1 )c3 − 2a6 b1 c2 + (a1 b2 + a8 b1 )c1 + b1 b2 b3 }s3
+{(a1 c1 + b1 b3 )c3 − a1 c22 + b1 b2 c1 }s2 + (b1 c1 c3 − b1 c22 )s · · (9)
X(s)
= −[{(a2 a8 − a3 a6 )Lf − a5 a8 + a26 }s4 + (a2 b2 Lf
F (s)
−a8 b3 − a5 b2 )s3 + {(a2 c3 − a3 c2 )Lf − a5 c3 + 2a6 c2 − a8 c1
−b2 b3 }s2 + (−b3 c3 − b2 c1 )s + (c22 − c1 c3 )]/De (s) · · · · · · · · (10)
θ1 (s)
= [{(a1 a8 − a3 a7 )Lf − a4 a8 + a6 a7 }s3
F (s)
+{(a1 b2 + a8 b1 )Lf − a4 b2 }s2 + {(a1 c3 + b1 b2 )Lf
(3),(4) 式となる。
X 軸:(M + m)ẍ + cx ẋ + m(L1 + L2 )θ¨1 + mL2 θ¨2 = F (2)
θ1 軸:[IM + Im + m{(L21 + L22 ) + 2L1 L2 }]θ̈1 + (Im
+mL22 + mL1 L2 )θ̈2 + m(L1 + L2 )ẍ + {2kl2 − m
·g(L1 + L2 )θ1 } − m · g · L1 θ2 + 2cl2 θ̈1 = F · Lf (3)
θ2 軸:(Im +
mL22
+ mL1 L2 )θ̈1 + (Im +
mL22 )θ̈2
+ mL2 ẍ
+µθ θ̇2 − m · g · L2 θ1 + (kθ − m · g · L2 )θ2 = 0
〈2・2〉 伝達関数
得られた運動方程式をラプラス変
換し,(8) 式の係数に置き換えると (5) 式 ∼(7) 式となる。
X 軸:(a1 s2 +b1 s)X(s) + a2 s2 θ1 (s)
+a3 s2 θ2 (s) = F (s) · · · · · · · · · · · · (5)
θ1 軸:a4 s2 X(s)+(a5 s2 + b3 s + c1 )θ1 (s)
+(a6 s2 + c2 )θ2 (s) = F (s)Lf · · · (6)
θ2 軸:a7 s2 X(s)+(a6 s2 + c2 )θ1 (s)
+(a8 s2 + b2 s + c3 )θ2 (s) = 0 · · · (7)
(4)
−a4 c3 + a7 c2 }s + b1 c3 Lf ]/De (s) · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (11)
θ2 (s)
= [{(a2 a7 − a1 a6 )Lf − a5 a7 + a4 a6 }s3 − (a6 b1 Lf
F (s)
+a7 b3 )s2 + (−a1 c2 Lf + a4 c2 − a7 c1 )s − b1 c2 Lf ]/De (s) (12)
回転方向の伝達関数に各質点からの距離 Lx1 , Lx2 をかけ
ることでプラントの伝達関数 (13) 式と (14) 式となる。
X1 (s)
X(s)
θ1 (s)
=
+
Lx1 · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (13)
F (s)
F (s)
F (s)
X2 (s)
X(s)
θ1 (s)
θ1 (s)
θ2 (s)
=
+
L1 + (
+
)(L2 + Lx2 ) (14)
F (s)
F (s)
F (s)
F (s)
F (s)
サーボを主にかけるのは上部センサ側 (X2 ) のため,(14) 式
をプラントとして考察を行っていく。
〈2・3〉 重心位置
質点の質量と距離から (15) 式が得
られ,ステージ全体の重心が求められる。また,図 2 で
kθ =∞ として 1 慣性系に近似したとき,全体の重心と駆動
点を算出した Lf のときに共振が消えることから Lf =+36.8
mm が全体の重心であることが確認出来る。2 慣性系の場
合,Lf =+36.8 mm では駆動部とテーブル部の各重心位置
2/6
が移動するため,共振が生じることが図 2 からわかる。
−150
−200
−250
−300
Magunitude(dB)
−350
1
10
2
10
Frequency(Hz)
Nyquist Diagram
(−1,0)
D+
D−
2
s +b1 s+b0
共振の周波数 (ω=ωn ) のとき ϕ2 =-90 deg であり,虚部 Cωn
と実部 D の値で ϕ1 が決まるため,図 3 のようにナイキス
(−1,0)
D+
D−
3
2
Imaginary Axis
1
0
−1
1
0
−1
−2
−2
−3
−3
−3
−2
−1
0
Real Axis
1
2
3
−3
(a) P1 (s)+Pn (s)
−2
−1
0
Real Axis
1
2
3
(b) (P1 (s)+Pn (s))CP ID (s)
図 4 ナイキスト 1 次共振
Fig. 4. Nyquist of the first resonance
Nyquist Diagram
Bode Diagram
5
0.3
0.2
0
Sp1
Sp2
−5
0.1
1/Sp2
0
−0.1
1/Sp1
−0.2
1
2
10
N (s) ; 分子の定数
A, B, C, D, E, F ; 定数
2 質点 4 自由度モデル a′0 =0.3692,b′0 =(2π×34.0792)2 ,
c′0 =(2π×98.3031)2
3. 2 慣性系におけるモード影響定数の符号変化
共振のモード影響定数の符号(D および F )により,共
振モードは位相安定化用の位相遅れ補償を用いることで安
定化することが出来る (3) 。また,各パラメータの変化によ
りモード影響定数に影響を与えるため,各パラメータの変
化によるモード影響定数の符号とナイキスト線図により検
証を行う。
〈3・1〉 共振部のナイキスト
(20) 式より,1次共振は
Cs+D
P1 (s)= s2 +b′ s+b′ と表すことができる。さらに,フェザー
1
0
表示したものを (21) 式に示した。

jϕ1


 Cs + D = A1 e
1
= A2 ejϕ2
· · · · · · (21)
s2 +b′1 s+b′0


j(ϕ1 +ϕ2 )
 P1 (s) = 2 Cs+D
′
′ = A1 A2 e
Nyquist Diagram
3
−10
N (s)
X2
=
F
s(s + a′0 )(s+ b′1 s + b′0 )(s2 + c′1 s + c′0 )
B
Cs + D
Es + F
A
+
+ 2
+ 2
(20)
=
s
s + a′0
s + b′1 s + b′0
s + c′1 s + c′0
図 3 共振部
Fig. 3. Resonance part
図 2 ボーデ線図
Fig. 2. Bode diagram
Imaginary Axis
〈2・5〉 モード分解
得られた伝達関数に対し,留数
定理による部分分数展開を行うことで (20) 式となった。1
次共振 ·2 次共振の共振周波数が b′0 と c′0 の平方根と一致す
ることから,2 慣性系の伝達関数において剛体部 ·1 次共振
·2 次共振と3つのモードに分解できたことが分かる。また,
分子を A から F の定数にまとめることで,モード影響定数
(D,F ) の値によって周波数特性の考察を行うことが出来る。
2
10
−100
Phase(deg)
〈2・4〉 コントローラ
剛体部をノミナルプラント (16)
式とし,PID 極配置設計によりコントローラ CP ID (s)(17)
式を設計した。また,位相安定化用の位相遅れ補償を Ch (s)
とした。閉ループ極と位相安定化用の位相遅れ補償の τ2 を
調節することで高帯域化を行う。
1
Pn (s) =
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (16)
a1 s2 + b1 s
2
KD s + KP s + KI
· · · · · · · · · · · · · · · (17)
CP ID (s) =
s(τ1 s + 1)
1
Ch (s) =
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (18)
τ2 s + 1


τ1 = 4ωp aa11 −b1




KD = 6ωp2 a1 τ1
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (19)
3


 KP = 4ωp a1 τ1

 K = ω4 a τ
I
p 1 1
−140
−160 1
10
Imaginary Axis
Lf = m(L1 + L2)/(m + M ) = +36.8 · · · · · · · · · (15)
One−mass
Two−mass
−120
Magnitude (dB)
m:(m + M ) = (L1 + L2 ):x
Bode Diagram
−100
10
Frequency (Hz)
(a) Sensitivity function
−1.1
−1
−0.9 −0.8 −0.7 −0.6 −0.5
Real Axis
(b) Nyquist diagram
図 5 感度関数ピーク
Fig. 5. Sensitivity function peak
ト円の位置と大きさが決まる。本稿のモデルでは D に対し
て Cωn が小さく Cωn ≒ 0 と近似出来る。そのため,ϕ1 =0
or 180 deg となり,図 4(a) のようにナイキストの円が上回
りか下回りの 2 通りとなる。図 4(b) からわかるようにコン
トローラによって位相が進むため,D の符号が正で円が下
回りであることが理想的である。2次共振の符号と位置の
関係も 1 次共振と同様であるため省略した。
〈3・2〉 感度関数の第 1 ピーク,第 2 ピーク
感度関数
は図 5(a) のように感度関数ピークが存在し,2 つのピーク
を Sp1 ,Sp2 と定義すると,剛体部分 (Sp1 ) と共振部分 (Sp2 )
で構成される。図 5(b) のように,点 (−1,0) からナイキスト
の直線部分までの距離を 1/Sp1 ,円部分までの距離を 1/Sp2
と表せる。特に,図 5 の波線で示したように半径 1/Sp1 の
円内部にナイキストの円部分が含まれる場合,Sp2 が盛り
上がり,この周波数帯で外乱が増幅されてしまう。
4. 2 慣性系実機モデルでの検証
性能を上げるため,パラメータを変化させることで閉ルー
プ極 ωp を出来るだけ高帯域化することを目的とする。仕
3/6
表 2 Lf の変化による符号変化
Table 2. Sign change by Lf 表 3 kθ の変化による符号変化
Table 3. Sign change by kθ
Lf [m]
D
F
kθ [N·m/rad]
D
F
Lf < +0.024
− +
kθ < 464.1
−
+
+0.024≤ Lf < +0.312
− −
464.1≤ kθ
−
−
+0.312≤ Lf
+ −
様条件を以下のように定める。Sp1 =2 dB 以下にすること
で,仕様条件 1 を満たすようにしている。目安として中心
(-1,0),半径 r=0.5 の円を各ナイキスト線図に記載してい
る。イナーシャは出来る限り小さくなるよう設計されている
ため,仕様条件 3 では大きくなる方向にのみ制限している。
仕様条件 1 位相余裕は 30 deg 以上
仕様条件 2 ノミナルな kθn に対して変化幅は 0.1∼30 倍
仕様条件 3 ノミナルな IM n , Imn に対して 1.0 倍以上
〈4・1〉 従来設計
重心駆動 (Lf n =+36.8 mm, kθn =975
N·m/rad) のプラントに PID 極配置設計のコントローラと
位相安定化用の位相遅れ補償を用いたものを従来設計とし,
仕様条件 1 を満たした上で最も高帯域化させたものを以下
に示した。このとき,モード影響定数の符号は (D,F)=(−−)
となるため,位相安定化をし難い。そのため,図 6(a)(b) で
示したように,従来設計のときには,位相余裕 33.2 deg,
ωp =2π×5.5 rad/sec までしか高帯域化出来ない。
〈4・2〉 提案設計 1
従来設計に対し,駆動部重心と駆
動点の差 Lf を変化させた設計を提案設計 1 とする。Lf の
変化によるモード影響定数の符号変化を図 7(a) と表 2 に示
した。図 7(a) は横軸に Lf ,縦軸にモード影響定数となっ
ており,Lf の変化によるモード影響定数の特性を示して
いる。一次共振 · 二次共振ともに理想的な範囲になる条件
は存在しないため,高帯域化をし難く,最適値は図 7(b) に
示したように,Lf =+323 mm のときに位相余裕 32.7 deg,
ωp =2π×17.1 rad/sec となった。
〈4・3〉 提案設計 2
駆動部とテーブル部の接続部に用
いているねじれバネのバネ定数 kθ を変化させた設計を提案
設計 2 としている。kθ の変化によるモード影響定数の符号
変化を図 8(a) と表 3 に示した。図 8(a) は横軸に kθ ,縦軸に
モード影響定数となっており,kθ の変化による特性を示して
いる。仕様条件 2 を満たしながら,一次共振 · 二次共振とも
に理想的な符号になる範囲がないため高帯域化し難く,最適
値は図 8(b) に示したように,Lf =+36.8 mm, kθn ×30 にす
ることで位相余裕 43.7 deg,ωp =2π×17 rad/sec となった。
以上より閉ループ極を高帯域化するには kθ を大きくす
ればよいことが分かるが,実際の設計において kθ を上げる
ことは難しいため,提案設計 3 では kθ を 1.0 倍以下に制限
して考察を行う。また,この条件を仕様条件 2’ とする。
〈4・4〉 提案設計 3
提案設計1と提案設計 2 を組み合
わせた設計を提案設計 3 とした。Lf と kθ を変化させており,
位相遅れ補償は用いていない。図 9(a) より,理想的な符号と
なる範囲があり,仕様条件 2’ を満たしたうえでの高帯域化
を可能にする。しかし,不安定にならずに大幅な高帯域化が
可能ではあるが,高帯域化を行っていくと図 9(b) のように
仕様条件 1 を満たさなくなってしまう。そのため,高帯域化
に制限がかかり最適値は図 9(b) より,kθ ×0.75,Lf =+425
mm のときに位相余裕 41.7 deg,ωp =2π×16 rad/sec となっ
た。図 10 から従来設計に比べ提案設計の方が感度関数の低
域におけるゲインが小さくなっていることから,外乱抑圧
に対する性能を上げることが出来ている。
提案設計 3 は提案設計 1 よりも高帯域化されていないが,
位相安定化用の位相遅れ補償を用いていない分,図 10 の
感度関数においてほぼ同等の有効性を示している。しかし,
より高帯域化を狙うために以下ではガントリ型露光装置に
おいても比較的値を変えやすいイナーシャを変化パラメー
タとして,検証を行っていく。
〈4・5〉 提案設計 4
横軸にイナーシャに対する倍数,
縦軸にモード影響定数の値を取り,Lf の変化によるモード
影響定数の変化を図 11 に示した。図 11(a) より駆動部側
のイナーシャIM と Lf の変化では,条件 3 を満たした範囲
で理想的なモード影響定数の符号 (++) となる状態が存在
しないため,高帯域化し難いことがわかる。図 12(b) より
テーブル側のイナーシャIm と Lf の変化では,条件 3 を満
たした範囲で理想的なモード影響定数の符号 (++) となる
状態が存在するため,大幅な高帯域化が望める。よって以
下では,高帯域化が望めるテーブル側のイナーシャIm と
Lf の変化を提案設計4として検証を行う。
提案設計 4 では提案設計 3 と同様に位相安定化用の位相
遅れ補償を用いていないため,図 12(b) より感度関数の低
域において非常にゲインが下がるため,提案設計 4 が外乱
抑圧に対して従来設計よりも大幅な性能の向上を可能にし
ていることがわかる。図 12(a) で Im ×1.9,Lf =+370 mm
のときに位相余裕 34.4 deg,ωp =2π×50 rad/sec となるこ
とを示した。さらなる高帯域化も可能であるが,図 12(a)
の値で十分高帯域化出来ているため,本稿では省略した。
〈4・6〉 提案設計 5
提案設計 1∼4 では,いずれも Lf
の値を数 100 mm と大きく変化させる必要がある。この設
計変更ができない場合には,1 次共振と 2 次共振のモード
影響定数が負となる。このような場合,一般にはノッチフィ
ルタを用いる。
〈4・6・1〉 ノッチフィルタ
剛体部と 1 次共振部を含
む (22) 式をノミナルプラントとし,P ID 極配置設計によっ
てノッチフィルタを含んだ P ID コントローラ Cnotch (s) を
(23) 式とした。
Pn2 (s) =
Cnotch (s) =
a1
s2
2
1
s2 + 2ξωn2 s + ωn2
· 2
· · · · · · (22)
2
+ b1 s s + 2ξωz2 s + ωz2
2
kD s2 + kP s + kI s2 + 2ξωz2 s + ωz2
· 2
(23)
2
s(τ1 s + 1)
s + 2ξωn2 s + ωn2
ωn2 =2π×34, ωz2 =2π×54,ξ=0.02
〈4・6・2〉 シミュレーション
モード影響定数の符号が
4/6
Bode Diagram
(−1,0)
Normal
5
0
1
0
−50
2
10
10
−100
−5
Magnitude (dB)
1
Imaginary Axis
Magunitude(dB)
1.5
Normal
−100 0
10
Phase(deg)
Bode Diagram
Nyquist Diagram
50
0.5
0
−200
−10
−15
−20
−0.5
−300
Normal
Proposed 1
Proposed 2
Proposed 3
−25
−400 0
10
1
−1
−1.5
2
10
Frequency(Hz)
10
(a) Bode diagram
−1
−0.5
0
Real Axis
0.5
1
1.5
−30 0
10
−4
2
10
Frequency (Hz)
図 6 周波数特性 従来法
Fig. 6. Frequency response Normal
6
1
10
(b) Nyquist diagram
Fig. 10.
図 10 感度関数 従来設計と提案設計 1∼3
Sensitivity function Normal and proposed1∼3
Nyquist Diagram
x 10
1
D
F
(−1,0)
Proposed 1
0.8
4
0.6
0.4
Imaginary Axis
Amplitude
2
0
−2
−4
0.2
0
−0.2
−0.4
−0.6
−6
−0.8
−8
0
0.1
0.2
0.3
0.4
−1
−2
0.5
L (m)
−1.5
−1
f
(a) Mode influence constant
−0.5
Real Axis
0
0.5
(a) Inertia IM
(b) Nyquist diagram
図 11 モード影響定数
Fig. 11. Mode influence constant
図 7 周波数特性 (提案法 1)
Fig. 7. Frequency response Proposed1
−4
Nyquist Diagram
x 10
(−1,0)
Proposed 2
0.8
−1
0.4
−2
0.2
−3
−4
0
−0.2
−0.4
−5
−7
0
0
−4
−5
−6
−7
−0.6
−6
Normal
Proposed 4
5
−1
Imaginary Axis
−3
10
(−1,0)
Proposed 4
0
0
−2
Bode Diagram
1
0.6
Imaginary Axis
Amplitude
Nyquist Diagram
1
D
F
1
Magnitude (dB)
2
(b) Inertia Im
−5
−10
−15
−20
−8
−0.8
−25
−9
5
10
15
× kθ (N⋅m/rad)
20
25
−1
−1.5
30
−1
−0.5
0
0.5
1
−10
−5
Real Axis
0
5
−30 0
10
10
1
(a) Mode influence constant
(b) Nyquist diagram
3
10
10
Frequency (Hz)
(a) Nyquist diagram
図 8 周波数特性 (提案法 2)
Fig. 8. Frequency response Proposed2
2
10
Real Axis
(b) Sensitivity function
図 12 周波数特性 (提案法 4)
Fig. 12. Frequency response Proposed4
Nyquist Diagram
1
(−1,0)
Proposed 3
ω =2π×40
0.5
Nyquist Diagram
−5
Magnitude (dB)
−1
0
−10
−15
−0.5
−1.5
−20
−1
−1.5
−1
−0.5
Real Axis
0
0.5
(b) Nyquist diagram
図 9 周波数特性 (提案法 3)
Fig. 9. Frequency response Proposed3
両方とも負となってしまう場合,ノッチフィルタを用いるこ
とで 1 次共振を小さくする,2 次共振は Lf の微小変化によっ
てゲインを小さくすることで,高帯域化を行った。図 13(a)
より,ノッチフィルタのみを用いた従来設計が ωp =2π×32
rad/sec までの高帯域化に対して,提案設計 5 の Lf =+2
mm に設計することで ωp =2π×54 rad/sec まで高帯域化可
能となった。図 13(b) からわかるように提案設計 5 は従来
設計に対し,感度関数の低域ゲインを大きく下げることが
でき,制御性能が向上されている。
−25
Normal
Proposed 5
1
−1.5
−2.5
(a) Mode influence constant
0
0.5
Imaginary Axis
Imaginary Axis
0
5
(−1,0)
Normal
proposed 5
1
−0.5
−2
−2
Bode Diagram
1.5
p
−30
−2
−1.5
−1
−0.5
Real Axis
0
(a) Nyquist diagram
0.5
1
1
2
10
10
Frequency (Hz)
(b) Sensitivity function
図 13 周波数特性 (提案法 5)
Fig. 13. Frequency response Proposed5
以上では同時最適化手法を用いた最適設計案について検
証を行ってきた。しかし,これは新しく製作するステージ
に対する設計理論であるため,それを製作しない限り実験
検証することができない。そこで,現存の超精密位置決め
ステージに対しては,パラメータを変化させるための補助
機構を作製することにより検証する。以下の実験では,本
研究室にある実験用ナノステージに対し補助機構を備える
ことで,補助機構によるパラメータ変化の有効性について
5/6
Bode Diagram
Bode Diagram
Bode Diagram
−140
−160 1
10
2
10
0
10
Phase(deg)
−150
−200
2
10
Frequency (Hz)
−150
−200 1
10
2
10
(b) Nominal plant(Normal)
0
a1
s2
2
10
−0.5
−50
−100
−150
−200 1
10
2
1
s2 + 2ξωn3 s + ωn3
· 2
· · · · · · (24)
2
+ b1 s s + 2ξωz3 s + ωz3
2
kD s2 + kP s + kI s2 + 2ξωz3 s + ωz3
· 2
(25)
2
s(τ1 s + 1)
s + 2ξωn3 s + ωn3
s + ωL
Cl (s) =
· · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · · (26)
s + ωH
Cnotch (s) =
ωL =2π×60(従来法),2π×65(提案法),ωH =2π×100 rad/sec
図 15(b) と表 4 にそれぞれ最も高帯域化した場合の結果
を示した。表 4 の ωp より,わずかな値ではあるが提案設
計のほうが高帯域化されていることが分かる。よって,現
存するステージに対して補助機構を備え付け,パラメータ
を変化させることで高帯域化を可能にし,ステージに対す
る同時最適化の有効性を示した。
6. ま と め
2 質点 4 自由度モデルの伝達関数に対してモード分解を行
−1
−1.5
2
10
−1
Frequency(Hz)
(a) Nominal plant(proposed)
図 14 周波数特性 (実験)
Frequency response Experimental
検証を行っていく。テーブル部と駆動部は 4 つの連結板に
よって結合されているが,4つの連結板を外すことで 2 慣
性系としての対象となる。おもりを連結板に結合させるこ
とで,駆動部の重心位置および駆動部のイナーシャを変化
させることができるため,本稿ではおもりと連結板を補助
機構とする。
5. 実験方法
従来法の重心駆動設計に対し,下部におもり 2 kg を結合
させたものを提案法とする。下部におもりを付けることで
駆動部重心,駆動部側のイナーシャ,駆動部の質量が変化
させることができる。従来法と提案法のプラント特性を図
14(a) に示した。図 14(a) から,従来設計よりも提案法の 2
次共振のゲインが小さくなり周波数も上がっていることが
分かる。よって,提案設計 5 のように 1 次共振に対しては
ノッチフィルタで共振のゲインを抑え,2 次共振は補助機
構によりパラメータを変化させることでゲインを抑える。
実験では,ノッチフィルタを含む PID コントローラと位
相安定化用の位相進み補償 Cl を用いた。ノッチフィルタ
は,図 14(b),図 15(a) のように実機プラント特性に対し極
が一致するようノミナルプラント (24) 式を設計し,PID 極
配置設計を行ったものを (25) 式とした。ノッチフィルタの
定数は表 4 に示した。仕様 1 を満たすよう高帯域化するよ
うに Cl (s) の ωL と ωH の値は調節した。最も閉ループ極を
高帯域化したときの値を以下に示した。
Pn3 (s) =
−160
Frequency(Hz)
(a) Plant characteristic
Fig. 14.
−140
0
−50
−100
(−1,0)
Normal
Proposed
−120
−180 1
10
2
0
−50
−100
0.5
Nominal
Measurement
−100
Imaginary Axis
−120
Magunitude(dB)
−140
Norminal Model
Measurement
−100
Phase(deg)
Gain (dB)
−120
−160
Phase (deg)
Nyquist Diagram
−80
Normal
Proposed
Magunitude(dB)
−80
−100
Fig. 15.
Table 4.
−0.5
Real Axis
0
0.5
(b) Nyquist diagram
図 15 周波数特性 (実験)
Frequency response Experimental
表 4 実機による高帯域化
Real machine’s making to high bandwidth
ωp rad/sec 位相余裕 deg
ωn3
ωz3
ξ
従来法
2π×25
32.09
2π×33.19
2π×48.25
0.0140
提案法
2π×27
33.85
2π×32.56
2π×47.44
0.0105
い,数式によるパラメータ設計変更の有効性を示すことで,
従来の重心駆動を基本とする設計概念に対して新しい設計
方針を提示した。また,本研究室で作製した実験用ナノス
テージに対して補助機構を用いたパラメータ変化によって,
補助機構を用いたパラメータ変化の有効性を示した。今後
はこの理論に基づいた新しい超精密位置決めステージの設
計と製作を行っていく。
7. 謝
辞
最後に,本研究の一部は文部科学省科学研究費補助金 (課
題番号,206860280) によって行われたことを付記する。
参考文献
( 1 ) A. Hara, K. Saiki, K. Sakata, and H. Fujimoto , “Basic
Examination on Simultaneous Optimization of Mechanism and Control for High Precision Stage”, IIC-07127, pp. 65-70 (2007)
( 2 ) M. Hirata, R. Ota, and K. Nonami, “Position Sensorless Control of AMB Systems by using Simultaneous
Optimum Design of Structure and Control System”,
Trans. JSME, Series C, 00-6, pp 37-44 (2000)
( 3 ) T. Atsumi, T.Arisaka et al.“Vibration Servo Control
Design for Mechanical Resonant Modes of a Hard-DiskDrive Actuator”JSME International Jouranal Series C,
Vol. 46, No. 3, pp. 819–827 (2003)
( 4 ) G. Obinata, T. Sato, K. Hiramoto, Y. Murahishi, and
Y. Kurita, “Simultaneous Optimization for Structual
and Control Subsystems”, Trans. JSME, Series C, Vol.
61, No. 591, pp. 4264–4269 (1995)
( 5 ) K. Tsujioka, I. Kajiwara, and A. Nagamatsu, “Simultaneous Optimum Design of the Structure and H ∞ Control System”, Trans. JSME, Series C, Vol. 61, No. 583,
pp. 967–974 (1995)
( 6 ) 原辰次 · 山浦弘:「磁気ヘッド位置決め機構系と制御系の
統合化設計」, 計測と制御, 第 6 号, pp. 406–411 (2002)
6/6
ダウンロード

2質点4自由度モデルを用いたガントリ型超精密位置決め