観測的宇宙論
第9回: 宇宙の化学進化
今井 裕
(鹿児島大学大学院理工学研究科物理・宇宙専攻)
今日の講義の内容
• 宇宙の「化学進化」=「元素組成進化」
– 恒星内部の重元素合成 ⇒「星の進化と宇宙」参照
– 恒星からの物質放出:
星周物質の組成と質量放出率
– 恒星の質量関数
• 星間物資の循環と宇宙の重元素汚染
– 星の中で合成される重元素の割合: イールド(yield)
– 重元素汚染度の変遷
• 観測: 金属量分布、恒星質量放出の観測
参考文献: シリーズ現代の天文学
3巻:宇宙論II ―宇宙の進化 4巻:銀河I ー銀河と宇宙の階層構造
5巻:銀河II―銀河系 6巻:星間物質と星形成
7巻:恒星
宇宙の「化学進化」=「元素組成進化」
• 宇宙初期の元素合成:
H, He, Li比の確定 第3回講義:「初期宇宙の元素合成」
• それ以降の元素合成: 恒星内部での元素合成
「星の進化と宇宙」
– 超低質量星 (M*<0.08Msun)
– 低質量星 (0.08Msun<M*< 2Msun)
– 中質量星 (2Msun<M*< 10Msun)
• 白色矮星を伴う連星系
• 炭素過多星(比較的低質量)
• 酸素過多星(比較的大質量)
– 大質量星 (10Msun<M*)
恒星内部の熱核反応
• 水素原子核からヘリウム原子核を合成
– p-p chain (太陽), ―1.5×107 K ー CNO cycle(高温)
• ヘリウム原子核同士の核融合 (>108 K )
Wikipedia
(スケールに注意)
– 鉄 (Fe)まで合成 (~1010 K )
– s(slow)過程: 中性子捕獲+β崩壊
• 重力崩壊と重元素の合成
– r(rapid)過程:
中性子捕獲がどんどん進む
– 電子捕獲(吸熱反応)⇒重力崩壊へ
問1: 質量の大きい星ほどより
重い元素を合成できる。その基本的な理由は?
現在宇宙の元素組成
H
He
CO
N
Fe
• H: He比は初期宇宙
でほぼ決まる
• 原子番号間隔が2の
のこぎり状相対値分布
• Feが多い
恒星内部元素合成履歴を物語っている
恒星の質量と内部元素組成
Harwig (2005)
星からの質量放出 (1/3)
• 星形成時の双極流/ジェット/HII領域膨張
– 元素組成の変成を伴わない
• 老期星からの質量放出流
– 恒星内部での元素合成+対流(高い温度勾配)
恒星質量によって対流層分布が異なる
– 低温領域での塵合成+強烈な放射圧
• 炭素質: graphite, amorphous,
polycyclic aromatic hydrocarbons (PHAs)
星の中で作られた炭素からそのまま形成される
中小質量星から大量に放出される
• 珪素質: silicate, pyroxenes
金属量の高い環境でしか作られない
酸素過多星(比較的重い中質量星)で主に形成
星からの質量放出 (2/3)
• 星の進化段階と質量放出率 (M*~2Msun)
主系列星
10-11 Msun/yr
赤色巨星枝星
10-8 Msun/yr
漸近巨星枝星
10-6 Msun/yr
問2: それぞれの
進化段階に
おいて放出
される質量を
計算せよ
Stellar evolution in HR diagram (Harwig 2005)
星からの質量放出(3/3)
• 超新星爆発
– 重力崩壊型(大質量星: M*>10Msun) II型超新星
重力崩壊の反動: 中性子星/ブラックホールが残る
– 熱核反応型(白色矮星を伴う連星系)
チャンドラセカール限界質量での
炭素核融合反応の暴走
恒星の消滅
※超新星爆発が起きる星と
起きない星との境目の質量は
研究課題
SN1987A (II型)
I型超新星
宇宙の化学進化と星形成
• 宇宙初期に形成されるのは超大質量星 第7回「最初の星」
– 超新星爆発による重元素の拡散と増加
• 宇宙早期における銀河形成・銀河衝突
– 爆発的星形成(=スターバースト)が活発
– 大質量星が多く作られる
• 星間塵、分子で汚染された星間ガスの形成
– 冷却が効くようになる、ガス収縮がし易くなる
– 比較的軽い星も形成できるようになってくる
– 大質量星と共に中小質量星も多数形成されるようになる
恒星の質量関数
環境によって
α と mass cutoff
の値が異なる
dN M 

M
dM

問3:
上式でα=-2の場合
0.1Msun≦M*≦1Msunと
10Msun≦M*≦100Msun
の2つの質量
グループに属する
星々の総質量に対
して比を求めよ。
Mass
cutoff
オリオン分子雲における分子ガスコア質量関数と
初期質量関数 (Ikeda et al. 2007)
金属量時間発展(宇宙化学進化)の方程式
 1


dZMgas  
Z
Zf  yf dMstar
1 
 1 

各元素毎に方程式
が立てられる
左辺: 星間ガス雲における重元素量の増加分
右辺第1項: 星間ガス雲から星形成時に星に取り込まれる分
右辺第2項: 一旦星に取り込まれて
変成を受けずに再び星間ガス雲へ戻される分
右辺第3項: 星が生まれた後の元素合成を経て
超新星爆発・質量放出によって星間ガス雲へ戻される分
Z: 星間ガス中の金属量の割合(質量比)〜主系列星表面や銀河全体での割合
β: 星に取り込まれた星間ガスのうち
変成を受けずに速やかに星間ガス雲へ戻される割合
y: 星内部で合成される重元素の割合=イールド(yield)
f: 星から星間ガス雲に送り込まれるガスの割合
宇宙の化学進化=重元素汚染の歴史
• H, He, Liからスタート
• 大質量星から放出されたFe, r-process 元素などが増加:
星・銀河の金属量:宇宙年代の指標
Fe/Hstar
Fe H  log
Fe/HSun
 logFe/Hstar  logFe/HSun
• 中小質量星の形成: C, N, s-process 元素の増加
• Liの減少: 恒星内部の原子核合成過程で破壊される

観測によって明らかになってきた
宇宙の重元素汚染の歴史と新たな研究課題
• 銀河中心ほど金属量が高い
– 銀河中心での活発な大質量星形成
• 衛星銀河では金属量が低い e.g. 大小マゼラン雲
– 塵に対するガスの比が母銀河よりも高い
– 現在でも活発な星形成:
母銀河/衛星銀河との重力相互作用?
• 太陽系近傍にある太陽より金属量が高い星々
– 銀河ハローから銀河系中心物質が降り積もって来た?
• 恒星から放出された物質の拡散・集積過程
– 星間・銀河間空間における密度・圧力・紫外線/宇宙線環境
に依存
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Cosmology_Imai_2009_5