上越数学教育研究,第28号,上越教育大学数学教室,2013年,pp.173-180.
.
「微分する」ことの意味理解に関する一考察
山 口
昌 広
上越教育大学大学院修士課 1 年
1 .研究目的と方法
を求めるとは,変化率 の変化を表す関数を
本研究の目的は ,高等 学校における「 微
求めることである。
分する」ことの意味理 解の様相を明らかに
導関数を求める ことに は, 極限という 概
し,高等学校第 2 学年における微分・積分
「 微分する」
念が関わってくる。したがって,
の学習 での「微分する 」ことの意味を生徒
ことの意味を考えるに は,極限 という概念
に考えさせる指導の改 善を行うことである。 の理解が必要となる。 極限は,高等学校第
現在の微分法の 学習に おける問題点と し
2 学年数学Ⅱの微分のところで初めて学習
て,次のことが言えよ う 。それは,微分法
するが,本格的には,高等学校第 3 学年数
を学習した生徒が,微 分法の計算を行い,
学Ⅲで学習する。高等学校第 2 学年数学Ⅱ
解答を得ることはできる。しかし,
「微分す
における極限の学習は ,表面 的なものにな
る ということはどうい うことか 」という問
りがちである。生徒は ,極限についての理
いに答えられる生徒が どれくらいいるかと
解が充分伴わないまま 微分を学習 していく
いうことになると,は なはだ 心許ない。生
ことになることが考えられる。
極 限 の 理 解 に つ い て , 池 田 ( 2002) は ,
徒は微分の計算ができるが,
「微分する」こ
との意味理解にまでは 至っていないのでは
「高等学校における極 限に関する概念のあ
ないかという問題である。
いまいさが,微積分の 理解の困難さを招い
塚原(2002)は,
「先行研究に,生徒は,
ている」( p.147)と述 べており,微積分の
微分積分法の計算はで きるが意味が分から
指導には,近似を使用 して,微分の概念を
ないという問題点の指摘があった。例えば,
形成することの必要性を指摘している。
「微
公式を適応して問題を 解くとき,やってい
分する」ことの意味理 解の様相を明らかに
る計算の意味が理解できていない」(p.105)
するためには,まず高等学校第 2 学年の極
といった微分・積分の 学習についての問題
限の指導に焦点をあて 考察してかなければ
点をあげている。生徒 は,微分学習におい
ならないと考える。
「微分する」ことの意味
て ,単に与えられた数 式に数字を当てはめ
を考えさせるためには ,微分の 学習の基礎
て問題を解くといった 公式の暗記と公式を
となる考えが生まれる高等学校第 2 学年で
適応する学習だけで終 わっていることが考
の指導に着目する必要 があると考えたから
えられる。
である。
「微分する」こ とは, 導関数を求める こ
本稿では次のように節を構成する。 第 2
とで ある。微分係数を 求めるとは,関数に
節では,高等学校学習 指導要領 において,
おいて変化率を求める ことであり,瞬間の
極限の指導がどのよう になされ ているか示
速さや接線の傾きがこ れにあたる。導関数
し,現在の高等学校に おける 微分法での極
– 173 –
限に関しての導入がど のように指導されて
を求める作業や,接線 についての生徒自身
いるか考察し,問題点 を明らかにする 。第
が図を書く作業や考察 をすることなく, 極
3 節では,小学校から高等学校の微分法ま
限の簡単かつ一方的な 説明に終わり, 結果
での学校教育を通じて , 極限の概念のもと
そのものを理解させ, 微分・積分 の計算練
となる「限りなく近づ く 」という概念がど
習に入るという指導の 傾向があると 考えら
のように構成されてい く のかを考察する。
れる。
第 4 節では,前田(2005)と薬袋(1997)の先
行研究をもとに,高校 生 に「微分する」こ
2.2
高等学校第 2 学年での微分法の指導
と の意味理解に必要な 極限 の概念を適切に
高等学校第 2 学年の微分法での極限の導
形成できる学習とはど のような 学習なのか
入方法について,ここでは,新編数学Ⅱ(啓
を考察する。第 5 節では,本稿で考察して
林館)を参考にする。
きたことの,まとめを 行い今後の課題を 述
この教科書では,斜面を転がる球体の平
均の速さを求めること から,平均変化率を
べる。
導き,グラフと対応さ せ考察している。そ
2.1
学習指導要領の極限に関する指導
の時を,関数 f(x)について, x=a から x=b
平成 21 年度に告示された高等学校学習
までの f(x)の平均変化率という 定義をして
指導要領では,極限の 概念がどのように扱
いる。 つまり以下のことである。
われているか述べられ ている 。極限が扱わ
の変化量
れる単元は,高等学校第 2 学年の微積分の
の変化量
単元からである。この 単元での極限の指導
=
( )−()
−
について,
「極限については直 観的に理解さ
平均変化率から 微分係 数に結びつける た
せるようにする」
(p.35)としており,極限
めに,b=b+h に置換することで,関数 f(x)
については軽く触れる 程度で止め,すぐ導
の x=a から x=b+h までの f(x)の平均変化率
関数を求める計算とそ の練習に入り, その
を定義している。そし て,極限の導入を行
後, 接線の傾きの値だ けを代数計算を使用
っている。その導入方法を以下に示す(図 1)。
することで求め,グラ フの概形を 求めるこ
とに重点が置かれている。
高等学校第 3 学年では,極限の単元にお
いて,分数関数や数列 などの他の単元の内
容と絡めて極限が扱わ れている。この指導
でも,極限については,
「微分法・積分 法の
基礎を培う観点から極 限の直観的な理解に
重 点 を 置 き な が ら … (略 )… 関 数 値 の 極 限 を
求めることができるようにする」(p.39)と記
述されている。この単 元でも,極限につい
ては,直観的な理解にとどめるとしており,
分数関数や数列の極限 を求めるという計算
に重点が置かれている。
以上のことから,現 在の 微分法における
極限 の指導は,近似値 を使用して,極限値
– 174 –
図 1:極限の導入方法
ここでの,極限 に関し ての教科書の指 導
という概念が生じるの は,主 に関数領域と
は,できるだけ 0 に近い小数を式に代入す
図形領域である。その ため, 上記の学校教
ることで,近似的に 2 になると指導され,
育における指導系統を以下に考察し ,
「限り
記号を使用することで, limℎ→0 (2 + ℎ)=2 で
なく近づく」という概 念が どのように生徒
表すという指導がされ ている。 つまり,極
に理解されていくのか考察する。
限について,近似的な計算をすることなく,
教師が,lim の記号を 使うことで,限りな
3.1
く近づくときの値が同 じになることを 指導
小学校での「限りなく近づく」という
概念
するといった教師の説 明だけで極限の導入
小学校で「限り なく近 づく」 極限の概 念
がされているのである 。 言い換えれば,教
が使用されている学習 は,第 5 学年の円周
師の説明だけの導入方 法では ,限りなく近
の長さ,第 6 学年の円の面積と反比例 であ
づけば,もう一方の量 がある値に近づくと
る。
いう概念が,意味理解 を伴わない極限値の
円周の学習では,正 8 角形,正 5 角形,
練習に終始する学習に なっていると考えら
正 6 角形の周の長さを測る活動を通じて,
れる。この問題点に関 するものとして,薬
円周の長さに結び付けている。ここでは,
袋(1997)と松田(1993)の指摘がある。
「限りなく近づける」 という考えは用いら
薬 袋 (1997)は ,「 0.999… = 1 に つ いて ,
れていないが,多角形 の周の長さを測る活
成績上位 40 名の生徒に聞いてみても,ほと
動は,限りなく周の長さを 0 に近づけると
んどの生徒が理屈では 1 となることがわか
いう概念の基礎を作っ ていると考えられる。
るが納得できないと答えている」(p.457)と
円の面積の学習 では, 円を円の中心か ら
述べている。松田(1993)は,
「中・高生はも
円周に向かって細かく 切り,それを長方形
とより,大学 生になっ ても 0.999…は,い
に近似することで面積 を求めている。 円を
くらでも 1 に近づくが,1 と考えることが
分割することで,新た な長方形を作り ,面
できないとする者が非常に多い」(p.157)と
積を求める考えの中に は,角度を限りなく
述べている。このこと から,生徒は,ある
0 に近づけるという考え方が用いられてい
値に限りなく近づくな らば,値が等しくな
る。
るという考え方に困惑 していると考えられ
反比例の学習では, 長方形の面積が決ま
る。従来の微分の学習 における極限の指導
っているときの縦と横 の長さの関係を調べ,
は改善されなければならない。
x の値が 2 倍,3 倍になるとそれに伴って y
本稿では,これ 以降, 限りなく近づけ ば
1
1
もう一方の量がある量 に近づくという概念
の 値 が 2倍 , 3倍 に な る と き を 反 比 例 と い う
を「限りなく近づく」ということにする。
と記述されている。小 学校では, グラフを
描くという指導がなされていないため,0
3. 「限りなく近づく」という概念の形成過
程
に近づくといった考え 方はなく, 表を通じ
て,量の関係を調べる という学習で終わっ
この節では,小学校算数 から高等学校数
ている。
学Ⅱの微分の学習まで の 学校数学では,ど
のように「限りなく近 づく」という 概念が
3.2
形成されているのかを 教科書を参考にし,
考察する。学校数学で 「限りなく 近づく」
– 175 –
中学校での「限りなく近づく」という
概念
中学校数学での「限りなく近づく」とい
したがってこのグラフから, 0 に限りな
う概念が存在している単元は, 第 1 学年の
く近づくとき,グラフが y 軸や x 軸と交わ
円の面積と反比例,空間図形である。
円の面積は,ク ローズ アップとして小 学
ることがないことを学習している。
校での円の面積と同様 の 考え方で「限りな
く近づく」という概念 を用いて 円の面積と
3.3
高等学校での「限りなく近づく」とい
う概念
扇形の面積について記 述している。 ここで
は,小学校で学んだ内 容を復習している。
高等学校での「限りなく近づく」という
このことから,円の面積の求める際に,
「限
概念が使用されている単元は, 第 2 学年で
りなく近づく」という 概念が用いられてい
学習する三角関数,指 数関数,対数関数で
ることがわかる。
ある。
三角 関 数で は , tan につ い ての グ ラフ に
a
反 比 例 は , y= の 関 係 が 成 り 立 つ と き y

は x に反比例すると定義している 。つまり,

2
よって,x= に限りなく近づく直線を漸近線
中学校の反比例の学習 では,小学校で 表を
と定義している。
「限りなく近づく 」という
使用して量の関係を調 べる ということに加
概念は,学校数学を通 じて, 三角関数の単
え,座標を用いて,グ ラフについて学習し
元で初めて言葉で指導されている。
ている。この単元では , クローズアップと
指数関数と対数 関数で は,グラフの考 察
して,x の値が 0 に近づくときの y の値と x
を行い,グラフの特徴 をとらえさせる指導
の値を大きくしたときの y の値について考
を行っている。しかし ,指数関数,対数関
察することで,反比例 のグラフの性質を導
数のどちらも,グラフ の大まかな概形を 記
き出している。次に示 すのは, 中学校の反
述しており,三角関数 のように漸近線につ
比例で学習する「限り なく近づく」という
いてまでは詳しく取り 上げられておらず,
概念が現れる箇所である(図 2)。
どの直線が漸近線にな るのかということを
グラフを通じて説明している。
3.4
考察
小学校算数から高等学校数学Ⅱの微分の
学習までの学校数学での,
「限りなく近づく」
という概念の形成過程 の考察から,学校数
学の中での「限りなく 近づく」という概念
は,関数領域と図形領 域に分類できる こと
が明らかとなった。
学校数学におけ る図形 領域と関数領域 で
の「限りなく近づく」 という概念の形成を
次ページに示し考察していく 。(図 3),(図
4)。
図 2:反比例の学習
– 176 –
をとらえることができ るため,児童・ 生徒
が「限りなく近づく」 という イメージが付
【図形領域における「限りなく近づく」
きやすいのではないか と考える。 また,高
という概念】
等学校数学第 2 学年で学ぶ微分の極限は,h
を限りなく 0 に近づけるという指導である。
・小学校第 5 学年
円の面積や周の長さを 求める活動には,円
「正多角形と円周の長さ」 ・円周の長さ
を細かく扇形に分割し ,角度または辺の長
さを限りなく 0 に近づけるといった概念が
・小学校第 6 学年
「円の面積を考えよう」
存在している。すなわち, 0 に近づけると
・円の面積
いう意味では同じ概念 であると考えられる。
関数領域におい ては, 中学校,高等学 校
・中学校第 1 学年
「平面図形」
ともグラフを通して,
「限りなく近づく 」と
・円と扇形
いう概念を学習してい る。つまり, 漸近線
とグラフの関係を見る ことで,極限の概念
図 3:図形領域
をとらえているのであ る 。しかし,関数に
おける指導の場合,反 比例,三角関数,指
数関数,対数関数のグ ラフにおける漸近線
は,グラフと交わるこ とはない という指導
【関数領域における「限りなく近づく」
がなされている。その ため, ある値に限り
概念】
なく近づくということ は,ある値と同じ 値
にはならないというこ とである 。その後学
・小学校第 6 学年
「比例と反比例」
習する微分法の接線の学習についても,
「限
・反比例
りなく近づく」という視点では,必ず 2 点
で交わっていると疑問 を持つ生徒がいる か
・中学校第 1 学年
「比例と反比例」
もしれないと考えられ る。 そこで,極限を
・反比例
理解するためには,近 づく値と近づける値
を区別しなければなら ない。そこで,近づ
・高等学校第 2 学年
「三角関数」
・三角関数グラフ
「指数関数」
・指数関数 y=  のグ
くものが見える指導を行う必要がある。
4. 無限の理解に関する先行研究
ラフ
「対数関数」
こ の 章 で は , 前 田 (2005)と 薬 袋 (1997)の
・対数関数 y=logx の
先行研究をもとに,生 徒が どのように「限
グラフ
りなく近づく」という ことをとらえている
図 4:関数領域
のか,また,生徒が,
「限りなく近づく」と
いう概念を理解するた めの方法を明らかに
図形と計量での 「限り なく近づく」と い
し,現在の指導と照らし合わせ考察する。
う概念は,円の考察により形成されている。
円という図形について 考察をすることで,
4.1
視覚的に「限りなく近 づく」という概念を
とらえていることがで きる 。視覚的に図形
前田(2005)の先行研究
前田(2005)は,高校数学の最終到達点が,
微積分であるのならば ,その基礎である極
– 177 –
限に含まれる無限の概 念を育まなければい
…であることに納得したことから,前田
けないが,実際の指導 では,極限に関して
(2005)は , 生 徒 の 無 限の と ら え は , 動 的 で
明示的であるという問 題点から, 無限概念
あると述べている。
を 数学史的な視点で, 無限を 動的な仮無限
と 静止的な実無限の側 面からとらえ た。こ
4.2
薬袋(1997)の先行研究
こで扱う動的な仮無限 とは,無限循 環小数
薬 袋 (1997)は , 極 限 の 計 算 は 技 術 的 な 習
で表されている数であ り,静止的な実無限
熟によって身についているが, 0.999…=1
とは,分数で表されている数のことである。
になることが理解でき ない 生徒がいること
前田(2005)は,無限概念の育成には,その 2
を 問 題 点 と し て い る 。薬 袋 (1997)は , 理 系
面性に気付くことが重 要であると述べてい
クラスの成績上位の高校生 2 人に対して,
る。前田(2005)は,高校生 4 人に無限循環
高校から大学にかけて の無限級数 の和に関
小数についての試行授 業を行い生徒 の無限
する極限の概念の変容 を,インタビューを
の理解の様相を明らかにした。
通じて調査し,極限の概念を理解するには,
試行授業の過程を以下に示す。
無限を動的にとらえる ことではなく静止的
にとらえる必要性があ ることを明らかにし
1
1
1
4
ている。
2
過程Ⅰ… , , , , を小数に直す。
6 8 12 33 17
インタビュー内容は以下の通りである。
過程Ⅱ…0.25,0.64,0.444…,0.2424…を
①
分数に直す。
平成 7 年 10 月
漸 近 線 , 無 限級 数 の 収束 , 循 環 小 数 ,
過程Ⅲ…過程Ⅱ部分の 後半部分についての
区 分 球 積 法 につ い て ,微 分 ・ 積 分 を 終
自由記述。
え て の 感 想 を極 限 の 概念 を 中 心 に 聞 い
た。
上記の試行授業 は,分 数 を無限循環小 数
に直す作業と無限循環 小数を分数に直す作
②
平成 7 年 11 月
業を通して,生徒が動 的に無限をとらえて
無 限 級 数 の 収束 , 区 分求 積 法 , 極 限 に
いるのか,静止的に無 限をとらえているの
ついて聞いた。
かを明らかにしている 。 試行授業の結果,
③
平成 7 年 12 月
生徒は,静止的にとら えるのではなく,無
無 限 級 数 (伸 び る 木 の 問 題 )に つ い て 聞
限を動的にとらえてい ることが明らかにな
いた。
った。前田(2005)は,0.999…=1 となるこ
④
平成 8 年 6 月
とに疑問を感じてい
大 学 で の 勉 強の 進 行 状況 , 極 限 の 理 解
た生徒に,1 を拡張さ
について(ε-δ論法)について聞いた。
れた除法の筆算の指
⑤
平成 8 年 12 月
導を行った。右に拡張
極 限 の 理 解 につ い て 今ま で の 過 程 を 生
された除法の筆算の
徒 自 身 に 振 り返 ら せ ,そ の 中 で の 質 問
方法を記す(図 5)。
紙 調 査 を 行 い, さ ら に質 問 紙 を 基 に イ
5:拡張された除法の筆算
ンタビューした。
この方法で,1 という静止した数を動的
インタビュー調 査の結 果 ,伸びる木に 対
な数にとらえ直すことで,生徒は,1=0.999
する高校生の極限のと らえ は,動的なとら
– 178 –
えであることが明らか になった 。伸びる木
1
の問題は,1 メートルの木が 1 年で 2の長さ
「限りなく近づ
の学校数学に目を転じると,
く」という概念は,関 数領域 と図形領域で
形成されている。その 関数領域の指導は,
で伸びているとき最終 的な木の長さを計測
中学校第一学年におけ る反比例の学習 や高
する問題である。この問題の解答は 2 メー
等学校第 2 学年における微分の学習ともに
トルである。伸びる木 の問題について, 木
動的に指導されている。微分法の指導では,
が 無限に伸び続けてい ると 考えている。そ
「限りなく 0 に近づける」という無限小の
のため,2 に限りなく近づくが,2 にならな
考え方がなされている。
い という考えに至って いる。 生徒は,公式
図形領域では,円について考察している。
を知っているため,解答が 2 になることは
円の面積では,円を細 かく量を等分する考
理解できているが,lim の時は=という等
え方がされている。つ まり,等分する考え
式になることがおかし い というとらえ方を
方は,分数で表される 。したがって静止的
している。
な指導がなされている 。そ のため,高等学
1 年後の生徒への質問紙の内容は,「 0.99
1
1
…は,1 の別表現であり,1+ + + …は 2 の
2
4
校数学第 2 学年の微分の学習においては,
級数に関わる和の極限 を対象とした数の動
的なとらえ・静止的な とらえを微分の基礎
別表現である。いずれも数直線上の点と 1
となる極限として見直す必要が出てくる。
対 1 に対応する。このことが感覚的につか
微分において,
「限りなく近づく」という
め た か ?(一 歩 離れ て静 止 的 な 状 態と し て
概念を生徒にとらえさ せるためには,近づ
見れるか?)」(p.461)である。
く値と近づける値を区 別する必要がある。
この質問紙に対し, 生徒は,長さ 1 の正
そこで,動的なとらえ ・静止的なとらえを
方形の対角線の長さが √2になることから,
無限小数を視覚的にと らえ,止まっている
高等学校第 2 学年の微分の学習に置き換え
という表現をしている。0.999…も同様に 1
られ,近づく値は,静 止的にとらえること
で止まっていると考え ており,感覚的に理
ができる。微分係数の 幾何学的な意味でと
解できたという回答が 得られている 。これ
らえるならば,曲線上 のある値における 接
て考えると,近づける 値は,動的にとらえ
は,0.999…という数だけ考えるのではなく, 線が静止的なとらえで あり ,接点と曲線上
√2を視覚的にとらえたことにより,生まれ
た発想である。
の近づく値とにできる 直線の変化が動的な
4.3 考察
5. まとめと今後の課題
とらえなのである。
前 田 (2005)と 薬 袋 (1997)の 研 究 は , 級 数
本稿では,
「微分する」ことの意味をとら
の和に関わる極限を対 象としたものである。 えるためには,極限の 概念が 関わることか
現 在 の 生 徒 は 無 限 の と ら え と し て , 0.999
ら,学習指導要領や教 科書を参考に小学校
…のように動的にとら えていることを明ら
算数から高等学校数学 Ⅱの微分の学習まで
かにしている。そして ,生徒に 無限をとら
の「限りなく近づく」 という概念の形成過
えさせるためには,数 を動的にとらえるの
程についての考察から 始めた。その結果,
ではなく静止的にとら え ることが「限りな
高等学校数学Ⅱの微分 の学習における極限
く近づく」という概念 の獲得 のための一つ
の指導が,教師説明だ けに終わっている こ
の方法であると述べて いる 。しかし,現在
と,小学校算数から高 等学校数学Ⅱの学校
– 179 –
数学を通じて「限りな く近づく」という概
念が図形領域と関数領 域 という別々のルー
解説
藤井斉亮(2011).『新しい算数 5~6』,東京書
ト において形成されて い ることが明らかに
なった。
数学編』,実教出版,35,39.
籍.
一松信 他(2012).『中学校数学 1』,学校図書,
「限りなく近づ く」と いう概念 を獲得 す
る た め の 見 方 を 探 る ため に , 前 田 (2005)と
136.
一松信 他(2012).『中学校数学 2~3』,学校
薬 袋 (1997)の 先 行 研 究を 参 考 に し た 。 そ こ
から明らかにされたこ とは, 生徒の極限の
図書.
高橋陽一郎 他(2012).『新編
概念の理解の様相と生 徒が 無限をとらえる
ために必要な数の動的 な視点と静止的な視
館.
高橋陽一郎 他(2012).『新編
点 が必要であることで ある。その研究結果
をもとに,高等学校数 学Ⅱの微分 の指導と
数学Ⅱ』,啓林
館,178.
高橋陽一郎 他(2012).『新編
結び付けて考察した。 そ の考察をもとに,
極限の学習においては , 近づけさせる値を
数学Ⅰ』,啓林
数学Ⅲ』,啓林
館
塚原久美子(2002).『 数学史をどう教えるか』,
動的にとらえさせ,近 づ く値は静止的にと
東洋書店,105.
らえさせることが大切 に なると考えること
前田淳一(2005).『 高校数学における無限概念
が できた。そのために は ,微分学習におけ
を育成に関する研究(Ⅲ)-無限循環小数に
る 微分係数を求める学 習 では,近似値を実
対する高校生の理解の様相-』,日本数学教
際 に計算させる作業や 接線 とそれに近づく
育学会
直線の作図という作業 を 盛り込んだ数学的
集,277-282.
活動を生徒にしっかり と させていく指導が
第 32 回数学教育論文発表会論文
薬袋秀樹(1997).『 極限概念の理解に関する研
必要であると考える。 ま た,現在の微分の
究』,日本数学教育学会
学習では,微分計算と そ の習熟だけになる
論文発表会論文集,457-462.
第 30 回数学教育
傾向がある。生徒が,
「微分する」ことの意
池田文男(2002).『関数の教授過程』,日本数
味 をとらえるためには , 代数的な考察だけ
学教育学会 第 35 回数学教育論文発表会,
で はなく幾何学的な考 察 も充実させていか
145-148.
なければならない。
松田元伸(1993).『「無限・極限」に関する一
この実践が今後の課題 である。これから,
考察-中・高校生に対する実態調査を通し
高等学校数学第 2 学年の微分の学習におい
て-』,日本数学教育学会 第 26 回数学教育
て ,微分の基礎となる 極限 の概念をどのよ
論文発表会論文集,157-162.
う に形成させていくか , そのためには,ど
の ような数学的な活動 を 構築すればよいの
か明らかにしていきたい。
引 用・参 考文 献
文部科学省(2008).『小学校学習指導要領
解説
算数編』,株式会社東洋館出版.
文部科学省(2008).『中学校学習指導要領
解説
数学編』,共立出版.
文部科学省(2009).『高等学校学習指導要領
– 180 –
ダウンロード

「微分する」ことの意味理解に関する一考察