放送用語委員会(関東甲信越)
耳で聞く視聴者に,負担をかけない文や表現を
第 1390 回放送用語委員会が 5月15日に放送文化
研究所で開かれた。外部委員は,作家の清水義範
氏,日本大学教授の荻野綱男氏と,早稲田大学教
授の笹原宏之氏で,長野・新潟・甲府・横浜・前橋・
水戸・千葉・宇都宮・さいたまの 9 局と首都圏放送
センターが参加。ニュースリポートを検討した。
【最後まで聞かないとわからない「で」に注意】
旅行に出かけたのは,3 年前に入院生活を乗り
越えたお祝いで,横浜市から千葉県に行ったの
が最後です。
「で」にはいくつかの用法があるため,文を「で」
でつないでしまうと,それがどのような意味なのか
文の最後まで聞かないとわからないことがある。こ
の文も例えば,「旅行に出かけたのは,…入院生活
を乗り越えたお祝いで,卒業のお祝いというわけで
はありません。」のような,断定の助動詞「だ」の連
用形でつないでいく形もあり得るため,聞いている
人は,その文がどの方向に進んでいくのかわからな
いままに聞き続けなくてはならない。
この文は,格助詞「で」を「として」に替えるとと
もに,文を2 つに分けたほうが大切な事柄を先に伝
えられ,意味もはっきりする。
→ 旅 行に出かけたのは,3 年前が最後です。
入院生活を乗り越えたお祝いとして,横浜
市から千葉県に行きました。
【構造が複雑な文は耳で聞いてわかりにくい
~“連体修飾”の形が続く文~】
〇〇さんが小学校のときに考えた標語が 書か
れた看板について,双葉町は,老朽化などを理
由に撤去する方針を決めました。これについて
〇〇さんは,…と話しています。
114
AUGUST 2015
VTR リポート直後 のキャスターコメントの文。
「〇〇さんが小学校のときに考えた標語」
「…標語
が書かれた看板」
「…理由に撤去する方針」という,
名詞を修飾する“連体修飾”の形が,1つの文の中
に 3 つ入っている。しかもそれぞれが,名詞を修
飾する部分に動詞が含まれる長い修飾節になって
いるため,文の構造が複雑になっている。これも,
耳で聞く視聴者にとっては負担のかかるわかりにく
い表現の1つである。すべての連体修飾節をなくす
わけにはいかないが,下記のように修飾節を短くし
たり,減らしたりする工夫をすると,わかりやすい
文章になる。ただし,下記の文章だと,VTR 直後
のコメントを,リポート全編をとおして紹介していた
「〇〇さん」で受けることができなくなってしまう欠
点があるため,実際には,それぞれの表現の長所
と短所を理解したうえで,どこに重点をおくのかな
ども考え,よりよい表現になるよう工夫することが
大切になる。
→ 双葉町は,町に残る看板について,老朽化
などを理由に撤去する方針を決めました。こ
れについて,看板の標語を小学校のときに
考えた〇〇さんは,…と話しています。
【構造が複雑な文は耳で聞いてわかりにくい
~格助詞「で」が続く文~】
今回の会談で台湾側は,来月,日本との間で
予定されている会議で,輸入規制の問題を取り
上げると表明していまして,今後,解禁に向け
た議論が進められる見通しです。
長すぎるうえ文の構造が複雑なため,耳で聞いて
一度で理解するのは難しい,と指摘された。特に,
「今回の会談で」と「予定されている会議で」の両
方に“場所や場面”を表す格助詞「で」が使われて
いることが,この文をより理解しにくくしている。こ
の文は,「 」を使ってわかりやすく示すと下記
のような構造になっていて,「で」が 2 つあることそ
のものは間違いではないことがわかる。しかし,
耳で聞いた場 合には,台湾側が表明した内容を
「 」でくくるようなことができないため,わかりにく
くなってしまう。
今回の会談で,台湾側は
「 来月,日本との間で予定されている会議で,
輸入規制の問題を取り上げる」
と表明していまして,今後,解禁に向けた議論
が進められる見通しです。
1つの例としては以下のようにすれば,長く,
「で」
が 2 つ続く文を避けることができる。
→ 今回の会談で台湾側は,来月には日本との
会議を予定しており,その際には輸入規制
の問題を取り上げると表明しました。今後,
解禁に向けた議論が進められる見通しです。
た。外来語は,その意味がわからないという視聴
者も多いため,
「ポテンシャル(身体能力)」
(または
「ポテンシャル(潜在力,可能性)」)などと書き添
えることができれば,より多くの視聴者にわかって
もらえるのではないかという意見が出た。
【外来語の意味は伝わるか
~意味がいくつかある外来語~】
保管する期間というのが過ぎてしまうと,捨て
られてしまうケースもありますし,…
VTR リポートが終わって,スタジオで記者が解
説するときの表現。ここでの外来語「ケース」は「場
合」の意味で使っているが,「箱」という意味に誤
解されるおそれがあるのではないか,という指摘が
あった。リポートの中で,未整理の資料が入った段
ボール箱が 6,000 箱もあり,活用するための作業を
進めるのはたいへんだということを紹介しているた
めである。
「ケース」は“なじみのない外来語”では
ないが,今回のように,その語がもつ別の意味に誤
解されてしまうこともあるので,注意が必要である。
【ことばを補えば,聞きやすくなる】
そのために欠かせないのは,再 生可能エネル
ギー,とりわけ家庭にも普及している太陽光発電
だと,多額の借金をして事業に乗り出したのです。
「太陽光発電だと」の「と」が,中途半端な情報
提示となり,どのような意味をもって文章をつない
でいるのか,文の最後まで聞かないとわからない。
「と考え」と補えば,そこで理解できるようになり,
心の準備をしたうえで文の後半部分を聞くことがで
きる。
埼玉県医師会は,女性医師を集め,ヒアリング
の場を設けました。
「ヒアリング」も聞き慣れない外来語というわけで
はないが,
「英語のヒアリング試験」のような使い方
のほうが知られている。特に,例えば高齢者など
外来語に比較的なじみのない人の中には,上記の
ような「意見の聞き取り」
(公聴会,聴聞会)という
使い方を知らない人もいると考えられるので,ここ
は「意見を聞く場を設けました。」などとするほうが,
より多くの人にわかりやすい表現となる。
太田眞希恵(おおた まきえ)
【外来語の意味は伝わるか
~言い添え,
書き添えをしたほうがよい外来語~】
そのポテンシャルの中で,工夫しながら旅行を
楽しみましょうよという提案をしたかったと。
インタビューで取材相手が「ポテンシャル」という
ことばを使い,放送では,インタビュー内容を表す
字幕も「ポテンシャル」ということばのまま表示され
第 1390 回放送用語委員会(関東甲信越)
【開催日】平成 27 年 5 月 15 日(金)
【出席者】清水義範 氏,荻野綱男 氏,笹原宏之 氏
神田真介 首都圏放送センター専任部長
阪中信之 放送文化研究所長 ほか
AUGUST 2015
115
ダウンロード

放送用語委員会 耳で聞く視聴者に,負担をかけない文や表現を