現代世界経済をとらえる Ver.5
第9章 グローバリゼーションとWTO
途上国問題と地域主義により揺れる
自由貿易体制の正当性
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9.1 GATT/WTOと途上国
a GATTの基本原則と途上国
•関税及び貿易に関する一般協定(GATT)は国際貿易憲章の
一部(第4章「通商政策」)を引き継ぎ,1947年に23カ国で署名,1948年に発効
•1995年 世界貿易機関(WTO)成立
加盟国は2009年1月1日現在153カ国で123カ国が途上国
•GATTの基本原則
①
②
③
④
関税主義:関税以外の貿易制限を禁止
相互主義:相互の利益を考慮して交渉を行う
一般的最恵国待遇:ある締約国が第三国に与えている最も有利な待遇は,
すべて締約国に無条件で与えられねばならない(無差別主義)
内国民待遇:国内の規制や手続きに関して輸入品と国産品を平等に扱う
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内外無差別の実現
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基本原則が途上国にとって持つ意味
•途上国の不十分な国内市場,保護主義政策→途上国は等価の譲許の交換を行うことが困難
であり,関税交渉は先進国間で行われる
•途上国は先進国間の交渉の成果が一般的最恵国待遇によって波及することに期待する
フリーライダーとなる。しかし,その効果は小さい←途上国は自由化の対象となる工業製品の
輸出能力に乏しく,比較優位をもつ農業と繊維は自由化の対象外
•途上国は「成長のエンジンとしての貿易」の枠外
•対等でないものを形式的に平等に扱うことは実質的不平等を生みだす
途上国は関税交渉において周縁化される
その是正のために
1960~70年代 途上国は特別かつ異なる待遇(S&D)を求める
① GATT第4部「貿易及び開発」の新設
「途上国に相互主義を期待しない」しかし,それは先進国の努力目標
② 一般特恵関税制度(GSP)の導入
GSPの利益はNIEsが独占する,途上国製品に対する先進国の市場開放は
義務ではないなどの欠点
そのため,どちらも、途上国の不平等な状況を改善するものとはならなかった
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b 途上国の自由貿易体制内化とウルグアイ・ラウンド
1980年代以降の世界貿易の変化
1. 財貿易以外の新分野の重要性が高まりルール化必要。
新分野:サービス貿易,国際投資,知的財産権
2. 農業を規律化する必要←米・ECの農産物輸出競争により農産物貿易が混乱
3. 途上国のGATTに対する姿勢の変化
① ラテンアメリカの一方的自由化,東アジアの外資に依存した工業化
→開発政策が自由化に収斂
② 先進国の一方主義を防ぐためにGATTの監視機能に頼る
→フリーライダーであった途上国は「貿易の利益」を求めウルグアイ・ラウンドに積極的に参加
ウルグアイラウンドは新分野の規律化を望む先進国と,
農業と繊維の自由化を求める途上国との「一大取引」
すべての協定を受け入れる一括受諾方式を採用
→先進国,途上国の壁を越えて,分野をまたがって譲許の交換が行われ,
すべての国が与えた譲許と獲得した譲許のバランスに一応満足する状況に到達
→交渉妥結
「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定」(WTO協定)成立
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c WTO協定の概要と途上国
WTO協定の要点
① 非農産物の関税引下げ:先進国全体で削減率40%,平均関税率は6.3%⇒3.8%へ
② 自由貿易規律の拡大・強化
(1)新分野のルール策定:「サービス貿易に関する一般協定(GATS)」「知的財産の
貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定) 」「貿易に関連する投資措置に関する
協定(TRIMS協定)」
(2) 農業と繊維の自由化「農業に関する協定」 「繊維及び繊維製品(衣類を含む)
に関する協定」
(3)東京ラウンドの補完協定の改定
③ 紛争解決規則の強化
(1)ネガティブ・コンセンサス方式:全会一致で否決しない限り提案を採択する
(2)クロス・セクトラル・リタリエーション:部門をまたがった報復
(3)紛争解決規則に従わない一方的措置(スーパー301条など)の禁止
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c WTO協定の概要と途上国(続き)
途上国からみたWTO協定の問題点
① TRIPS協定
(1)医薬品アクセス問題:高額の特許料のために途上国は生命にかかわる医薬品を
入手できない(解決)
(2)伝統的知識の保護の問題:先進国が途上国の先住民が共有している知識を入手して
開発した製法について特許を取得する(バイオパイラシー)
② TRIMS協定:ローカルコンテントの禁止は外国企業を途上国の開発に役立てる道を制約する
③ サービス貿易:交渉の焦点は「海外拠点の設置によるサービスの提供(第4モード)」の交渉は
進まない
④ 農業の保護の削減は進まない。繊維の自由化は10年間先送りされたのも同然
⑤ 関税問題
(1)タリフ・ピーク(高率関税):先進国は途上国の輸出品目(繊維など)に高い関税率を維持する
(2)タリフ・エスカレーション(傾斜関税):原材料,半製品,完成品と完成度が高くなるに
したがって関税率が高くなる。これらは途上国の工業化を制約
⑥ 関税評価,衛生検疫,知的財産権などの制度を先進国の制度につくり替える負担
 ウルグアイラウンドで,途上国は実効性のない先進国市場の開放と引換えに
大きな義務や負担を負った
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9.2 ドーハ開発アジェンダ
a ドーハ開発アジェンダへの道のり
1996年 シンガポール閣僚会議:投資,競争,貿易円滑化,政府調達
の透明化(シンガポール・イシュー)を交渉事項とすることが提案される
2000年から農業とサービスの交渉を開始することを,
ウルグアイ・ラウンドで合意済み(ビルト・イン・アジェンダ)
1999年 シアトル閣僚会議 しかし,新ラウンドの立ち上げに失敗
その原因
1. 途上国連合の強硬姿勢「新ラウンドの前にウルグアイ・ラウンドの不平等を是正せよ」
2. EUの包括交渉とアメリカの早期実施方式の対立
3. アンチ・ダンピングのルールの見直しに日本,EU,途上国は賛成するが,アメリカは反対
4. アメリカは労働基準を通商規定に盛り込むことを主張するが,途上国は反対
5. 投資ルールの作成にアメリカ,EU,日本は賛成するが,途上国は反対
6. グリーンルーム会合(先進国中心の根回しのやり方)に途上国が反発
⇒新ラウンドは立ち往生する懸念
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•2001年9.11同時多発テロ→世界経済混乱の恐れ→先進国が懐柔策で途上国を新ラウンド
へ巻き込む
•2001年11月 ドーハ閣僚会議 「ドーハ閣僚宣言」採択,新ラウンドスタート。名称は「ドーハ
開発アジェンダ(DDA)」
「ドーハ閣僚宣言」第2パラグラフ
「国際貿易は経済開発の促進と貧困の削減に大きな役割を果
たすことができる.
多角的貿易システムが生み出す機会の増加という利益はす
べての人々に享受されなければならない.
WTO加盟国の大多数は開発途上国である.
われわれは,開発途上国の要求と利益が本宣言で採択され
た作業計画の中心に据えられるよう努力する.」
途上国の開発の促進と貧困の削減を中心に据える
貿易の開発の次元の制度化が課題
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b ドーハ開発アジェンダの現状と「貿易の開発の次元」
ドーハ開発アジェンダにおける
「争点の三角形」
(出所)外務省経済局『WTO ドーハ・ラウンド交渉』2009年1月(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/wto/pdfs/doha_raund_0901.pdf).
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b ドーハ開発アジェンダの現状と「貿易の開発の次元」(続き)
開発の促進と貧困の削減の観点から見たDDAの問題点
① 後発開発途上国の問題が後景に退く
先進国の農業自由化→一部の農業輸出国(ブラジル,オーストラリアなど)は利
益を得るが,後発開発途上国(大半は農産物輸入国)は短期的には不利益を被
る(先進国の輸出補助金削減→農産物価格上昇
② タリフ・ピークやタリフ・エスカレーションを是正する必要
③ スイス・フォーミュラ(先進国より途上国の方が関税削減幅が大)の問題点:後発
国は高い保護のもとで生産力を発展させた後に自由化したという歴史に反する
④ 途上国に関心の高い「人の移動によるサービスの提供」について交渉を進める必
要
⑤ Aid for Trade (貿易のための援助:自由化の利益を実現し,自由化の不利な影響
を緩和するための援助)の重要性
• 制度面:港湾,税関などの貿易インフラを整備する
•
•
供給面:国際市場で通用する品質を確保する能力や国際市場へ参入するための
輸送能力を育成する
自由化のコストを引き受ける:自由化→輸入競合産業から労働の排出→セーフテ
ィネットの整備が不可欠 自由化による関税収入の減少などに対処する必要
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9.3 無差別・多角主義と地域主義
a 関税同盟と自由貿易地域
GATT第24条 一定の要件のもとで関税同盟と自由貿易地域を容認
要件:域外に対する障壁を高めない 域内の実質上すべての貿易において障壁を撤廃する
域内
域外
関税同盟
実質上すべての貿易障壁を撤廃
加盟国が共通の関税率や通商規則を適用
自由貿易地域
同上
加盟国が独自の関税率や通商規則を適用
① 自由貿易地域では原産地規則が重要となる
域外国は最も関税率の低い国を経由して製品を消費地に輸出する
域内関税免除の特権を域外国に与えることを防ぎ,それを域内国に限定するためには,原産地規則(製品
の原産国を決定するルール)が重要
② 1つの自由貿易地域の形成は,域外国が自由貿易地域を形成することを促す
A国がB国と自由貿易地域を形成→A国はそれに縛られずC国と自由貿易地域を形成できる(C国に対す
る通商規則はA国とB国で異なっても構わない)
C国も自由貿易地域未加盟の不利益を解消するために
,自由貿易地域の形成に乗り出す→自由貿易地域のネットワークが広がる(ドミノ効果)
スパゲティ・ボウル現象:内容の異なる協定が張り巡らされ各国間の差別を助長,制度の運営困難
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b 地域主義の第3の波
第1の波 (1950~60年代) 欧州発の経済統合の波がアフリカ,ラテンアメリカに広がる。
途上国の域内自由化は進まず,地域経済統合の意義はほとんどない
第2の波 (1990年代)の特徴
① 1980年代の自由化→1990年代には,貿易・投資の自由化の手段として途上国に地域主義が
根付く
② 無差別・多角主義を基本としていたアメリカが地域主義に着手
⇒北米自由貿易協定(NAFTA),ASEAN自由貿易地域(AFTA),南米南部共同市場(MERCOSUR)
第3の波 (2000年以降) 地域主義がアジアに拡大
1997/98年アジア通貨危機,IMFコンディショナリティにより危機深刻化→アジア独自の枠組み
を作る必要性認識→日本の通商政策の転換。無差別・多角主義と並んで地域主義の意義を
認める
⇒ 「日本・シンガポール新時代経済連携協定(JSEPA)」(2002年発効)
「経済上の連携の強化に関する日本国とメキシコ合衆国との間の協定(日墨EPA)」(2005年発効)
⇒「ドミノ効果」により東アジアに地域主義拡大
•「中国・ASEAN包括的経済協力枠組み協定」(2003年発効) 「物品貿易協定」(05年発効)
•「日本・ ASEAN包括的経済連携協定」(2008年発効)「日本・韓国経済連携協定」(交渉中断)
•「韓国・ ASEAN包括的経済協力枠組み協定」(2005年発効) 「物品貿易協定」(07年発効)など
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c 東アジア地域主義の課題
① 貿易創造効果と貿易転換効果
貿易創造効果:地域統合の結果,高コストの自国の財が,低コストの域内からの輸入品に
代替されることで,厚生にプラスとなる
貿易転換効果:域外から輸入されていた低コストの財が,地域統合の結果,高コストの域内
からの輸入品に代替されることで,厚生にマイナスとなる
② スパゲティ・ボウル現象を解消できるか
錯綜する2国間協定を1つの地域協定にまとめ,東アジア自由貿易地域を形成することは難し
い
③ 域内貿易の構造を変える必要
• 1980年代後半以降の円高→多国籍企業は東アジアへの投資を拡大。工程間分業のネットワ
ーク形成。貿易,投資の域内比率上昇
• 制度に主導されたEU統合に対して,東アジアは市場に主導された事実上の地域経済圏を形成
• しかし,東アジアは最終財需要の大半を欧米に依存(2005年,最終財の域内への輸出比率は
EUでは67%,東アジアでは35%)→2008年世界不況の影響が増幅して東アジアに伝播→東アジ
アの域内分業縮小鉱工業生産の落ち込み大
 アメリカに依存しない東アジアの枠組みをつくるには,貿易構造を最終財需要に裏付けられた
域内貿易へと変えていくことが必要。そのためには,日本は市場開放,経済協力などで東アジ
ア諸国の発展を促すことが不可欠
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参考
現在も効力を有している地域貿易協定のGATT/WTOへの通知時期
(出所)経済産業省『2008年版通商白書』405ページ(http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2008/2008honbun_p/2008_19.pdf).
(注)1.WTOに通報された地域貿易協定のうち,GATTとGATS両方への通報に伴う重複を除き,
かつ既存の協定への新規加盟国追加に伴う重複を除いた151件を分類.
2.OECD加盟国もしくはEU加盟国を先進国とし、それ以外の国を発展途上国とした.
(資料)WTO Webサイト.
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