特集
公共建築物等における
木材の活用
平成 22 年の通常国会において「公共建築物等における木材の利用の促進
に関する法律」が成立し、5 月 26 日に公布、10 月 1 日に施行されました。
法律には、
「国の責務として木材の利用の促進に関する施策を総合的に策
定し、実施するとともに、自ら率先してその整備する公共建築物における木
材の利用に努めなければならない。また、木造の建築物に係る建築基準法
等の規制について検討を加え、その結果に基づき、必要な法制上の措置そ
の他の措置を講ずるとともに木材の利用の促進に関する理解を深めるよう努
めなければならない。
」とあり、今後の木材利用の促進が謳われています。
現存する世界最古の木造建築物は、法隆寺の金堂、五重塔を中心とする
西院伽藍で、1993 年(平成 5 年)に「法隆寺地域の仏教建築物」として世
界遺産に登録されています。1300 年の風雪に耐えてきた法隆寺は、奈良の
気候、風土、自然と対話し、文化、伝統、工芸、産業に裏打ちされ、匠の
技の中から誕生したものです。以来、我が国では木造建築に関する技術と
伝統を継承、発展させ今日に至っています。
木造建築物は、柔らかさや肌触りに安心感を覚える材料であるばかりでは
なく、他の構造建築物と比較すると、木は育成から運搬、加工・組立に至る
工程において CO の排出量が少ないことから環境への負荷が少ない構造様
2
式であると言えます。しかしながら、耐震性、防火・耐火・不燃性能、防腐・
防蟻・防湿等の構造耐力上の課題に対し、しっかりとした対処が必要となり
ます。
昨年 10 月より木材利用を促進するため 16 省庁が集まる連絡会議の開催も
始まり、国産材の利用を促進する取組みが本格化しています。今回は 「公共
建築物等における木材の活用」 と題し、新法の内容と各省庁の取組み状況
について紹介するとともに、昨年 11 月にコスト研が主催した「公共建築月間
の記念行事」である「講演会」の 「木造建築による公共施設の可能性」 に
ついて掲載しております。
33
公共建築物等における木材の利用の促進
に関する法律について
林野庁林政部木材利用課
となっています。
1 はじめに
また、木材は、断熱性、調湿性等に優れ、紫外線を
吸収する効果や衝撃を緩和する効果が高い等の性質の
平成 22 年 10 月 1 日に林業の持続的かつ健全な発展
ほかに、製造時のエネルギー消費が小さく、長期間に
を図り、森林の適正な整備及び木材の自給率の向上に
わたって炭素を貯蔵できるとともに、エネルギー源と
寄与することを目的とした「公共建築物等における木
して燃やしても大気中の二酸化炭素の濃度に影響を与
材の利用の促進に関する法律
(平成 22 年法律第 36 号)
」
えない「カーボンニュートラル」な特性を有する資材
が施行されました。
であり、その利用を促進することにより、健康的で温
本稿では、本法律制定の背景、ねらい等についてご
もりのある快適な生活空間の形成や、二酸化炭素の排
紹介します。
出の抑制及び建築物等における炭素の蓄積の増大を通
じた地球温暖化の防止及び循環型社会の形成にも貢献
2 本法制定の背景
することが期待されています。
このような中、これまでも、木材の利用の推進を通
森林は、国土の保全、水源のかん養、自然環境の保
じて、我が国における森林の多面的機能の発揮を図っ
全、公衆の保健、地球温暖化の防止、林産物の供給等
ていく観点から、住宅をはじめとする国産材の利用拡
の多面的な機能の発揮を通じて、国民生活及び国民経
大を図るため様々な施策を実施してきました。しかし
済の安定に重要な役割を担っており、林業の持続的か
ながら、公共建築物の整備においては、過去、森林資
つ健全な発展を通じて森林の適正な整備を図ることに
源の枯渇への懸念や不燃化の徹底等から木材の利用が
より、これら森林の有する多面的機能が持続的に発揮
されることが極めて重要です。
しかしながら、戦後植林された人工林資源が利用可
能な段階を迎えつつある一方で[図表 1]
、これら資源
の利用は低調であり、
木材価格も低迷していること[図
表 2]等から、林業生産活動は停滞し、森林の有する
多面的機能の低下が懸念される状況となっています。
このため、国内で生産された木材(以下「国産材」と
いう。
)の需要を拡大することにより林業の再生を図
り、適正な森林整備の確保につなげていくことが急務
34
図表1 我が国の森林資源の状況
抑制された時期があり、現在に至っても、木材利用の
一般建築物への波及効果、木質バイオマスとしての利
可能性が十分検討されることなく鉄筋コンクリート造
用促進を含め、木材全体の需要を拡大することをねら
等が選択される傾向があることなどから、木材の利用
いとして制定されました。
は低位にとどまっている状況にあります[図表3]
。
また、公共建築物そのものの木造化以外にも、主要
3 法律の概要
構造部以外の内装材や外装材、家具調度品や文具類等
の各種製品、暖房器具やボイラーの燃料等のエネル
1 国や地方公共団体の責務等
ギー源としての木材の利用が可能であるにもかかわら
まず、本法律では、国の責務として、木材の利用の
ず、十分に利用が進んでいるとは言い難い状況にあり
促進に関する施策を総合的に策定し、実施するととも
ます。
に、自ら率先してその整備する公共建築物における木
本法律は、このような状況を踏まえ、現在のところ
材の利用に努めなければならないこと、また、木造の
木造率が低く、今後の需要が期待できる公共建築物に
建築物に係る建築基準法等の規制について検討を加
ターゲットを絞って、国が率先して木材の利用に取り
え、その結果に基づき、必要な法制上の措置その他の
組むとともに、地方公共団体や民間事業者にも国の方
措置を講ずることなど、広範にわたる責務が規定され
針に即して主体的な取組を促すことにより、住宅など
ています。
(3条)
また、地方公共団体も、国の施策に準じて木材の利
図表2 木材需要・木材価格の状況
用の促進に関する施策を策定し、及び実施するよう努
めるとともに、その整備する公共建築物における木材
の利用に努めなければならないこととされています。
(4条)
さらに、事業者及び国民についても、木材の利用の
促進に自ら努めるとともに、国又は地方公共団体が実
施する木材の利用の促進に関する施策に協力するよう
努めるものとされています。
(5条及び6条)
図表3 公共建築物の木造化の現状
35
公共建築物等における木材の活用
なお、本法律において「公共建築物」とは、次に掲
各庁の長が定める公共建築物における木材の利用の促
げる建築物をいうことと定義されています。
(2条1
進のための計画に関する基本的事項」が規定(7条)
項)
されており、各省各庁の長は、基本方針に基づき、公
① 国又は地方公共団体が整備する公共の用又は公用
共建築物における木材の利用の促進に係る計画を作成
に供する建築物
することとしています。
② 国又は地方公共団体以外の者が整備する学校、老
3 木材製造高度化計画の認定
人ホームその他①に掲げる建築物に準ずる建築物で政
公共建築物の整備においては、長くて太い木材や乾
令で定めるもの
燥材などの品質・性能の確かな木材が必要であり、そ
②については、施行令で、国又は地方公共団体以外
の製造のための専用の加工施設や乾燥設備等の設備が
の者が整備する公共建築物として、以下のものを規定
必要となります。
しています。
(2条1項2号関係)
こうした公共建築物に適した木材を円滑に供給して
① 学校
いくためには、木材製造業者がこのような設備を導入
② 老人ホーム、保育所、福祉ホームその他これらに
し、供給能力の向上を図っていく必要があります。
類する社会福祉施設
このため、木材製造業者が木材製造高度化計画を策
③ 病院又は診療所
定し、農林水産大臣の認定を受けた場合には、計画に
④ 体育館、水泳場その他これらに類する運動施設
従って行う取組に対して、林業・木材産業改善資金の
⑤ 図書館、青年の家その他これらに類する社会教育
償還期間を 10 年から 12 年に延長するなど事業者負
施設
担の軽減を図ることとされています。
(10 条~ 13 条、
⑥ 公共交通機関の旅客施設
施行令2条)
⑦ 高速道路の休憩所
4 公共建築物における木材の利用以外の木材の利用の
2 公共建築物における木材の利用の促進に関する基本
促進に関する施策
方針、都道府県方針及び市町村方針の策定
公共建築物における木材の利用以外の木材の利用の
農林水産大臣及び国土交通大臣は、公共建築物にお
促進に関する施策として、国及び地方公共団体に対し
ける木材の利用の促進に関する基本方針(以下、
「基
て、①住宅における木材の利用、②ガードレール、高
本方針」という。
)を策定し、公表するとともに、毎
速道路の遮音壁、公園の柵その他の公共施設に係る工
年一回、基本方針に基づく措置の実施の状況を公表す
作物の資材としての木材の利用、③パルプ・紙やバイ
ることとされています。
オプラスチック等の製品の原材料としての木質バイオ
また、
都道府県知事及び市町村は、
国の基本方針(市
マスの利用、④エネルギー源としての木質バイオマス
町村にあっては、当該市町村の区域をその区域に含む
の利用の促進のために必要な措置を講ずるよう努力義
都道府県が定める方針)に即して、それぞれの区域内
務を規定しています。
(17 条~ 20 条)
の公共建築物における木材の利用の促進に関する独自
5 その他
の方針を定めることができることとされています。
(8
政府は、
本法の施行後5年を経過した場合において、
条及び9条)
その施行の状況について検討を加え、その結果に基づ
なお、基本方針においては「基本方針に基づき各省
いて必要な措置を講ずるものとされています。
(法附
36
則2条)
すべてのものを、その判断の基準を満たすもの(すな
わち、合法性等が証明された木材や間伐材等)とする
4 基本方針の概要
こと
(4)基本方針に基づき各省各庁の長が定める公共建
基本方針(平成 22 年 10 月 4 日公表)においては、
築物における木材の利用の促進のための計画に関する
以下の内容を定めています。
基本的事項
(1)公共建築物における木材の利用の促進の意義及
び基本的方向
●公共建築物における木材の利用の促進が、林業の再
●各省各庁の木材利用の方針及び目標を定めるべきこ
と、推進体制について記載すべきこと等
(5)公共建築物の整備の用に供する木材の適切な供
生や森林の適正な整備、地球温暖化の防止等に貢献す
給の確保に関する基本的事項
ること
●公共建築物の整備に適した木材の円滑な供給の確保
●過去の非木造化の考え方を、公共建築物については
に取り組むべきこと
可能な限り木造化、木質化を図るとの考え方に転換す
●合法性等が証明された木材の供給・利用を推進する
ること
こと
(2)公共建築物における木材の利用の促進のための
(6)その他公共建築物における木材の利用の促進に
施策に関する基本的事項
関する重要事項
●建築基準法等の法令で耐火建築物とすること等が求
●都道府県方針又は市町村方針を作成する場合の留意
められない低層の公共建築物について、積極的に木造
事項
化を推進すること
●維持管理を含むコスト縮減対策
●木造化が困難な公共建築物の例示(大規模災害時拠
●関係省庁等連絡会議を設置すること
点施設等)
●木造化が困難な場合でも内装等の木質化、原材料に
5 おわりに
木材を使用した備品や消耗品の利用、木質バイオマス
の利用を推進すること
(3)国が整備する公共建築物における木材の利用の
本法律は、衆参両議院において、全会一致で可決・
成立したこと、また、全国知事会、全国市長会、全国
目標
町村長会をはじめ数多くの地方自治体等から要請が
●国は、その整備する公共建築物のうち、積極的に木
あったことなどから分かるように、木材業界を含め、
造化を推進する公共建築物に該当する低層の公共建築
関係者にとって正に念願の法律でした。本法律は国自
物について、原則としてすべて木造化を図ること
らが率先垂範を規定した法律であり、今後、国は基本
●低層・高層に関わらず内装等の木質化、原材料に木
方針に従い率先して木材利用に取り組んでいきます
材を使用した備品や消耗品の利用、木質バイオマスの
が、国の方針に即して各地方公共団体等に対しても、
利用を推進すること
さらなる木材利用の取組を進めていただくよう期待す
●利用する木材のうち、グリーン購入法に規定する特
るものです。
定調達品目に該当するものについては、原則として、
37
学校施設における木材利用の促進
文部科学省大臣官房文教施設企画部
施設助成課
[はじめに]
[学校施設における木材利用の推移]
学校施設は、児童生徒の学習の場であると同時に、
学校施設は、戦前、木造が多く建設されましたが、
一日の大半を過ごす生活の場でもあり、それにふさわ
戦後は、火災や台風の風水害などに対する防災上、安
しい豊かな環境を整備することが求められます。
全上の観点から不燃堅牢化を図るため、鉄筋コンク
木材は、やわらかで温かみのある感触、高い吸湿性
リート造による建設が進められました。
などの優れた性質を持っており、この性質を活用した
しかしながら、安全性の確保とともに、ゆとりと潤
木造校舎や、内装に木材を使用した教室等は、豊かな
いのある環境を確保することも必要との考えから、内
教育環境づくりを行う上で大きな効果が期待できま
装等に木材を活用する例も増えてきました。
す。また、木材の使用は、地球温暖化防止への貢献、
昭和 60 年代からは、文部省(当時)においても、
地域の文化の継承などの観点からも、大きな意義があ
学校施設について、木造化、内装木質化、家具への木
ります。
材利用など、木材利用推進の施策を講じてきました。
平成 22 年 10 月1日には「公共建築物等における木
こうした取組もあって、公立学校施設の整備にお
材の利用の促進に関する法律」が施行されました。
ける木材使用量は増加傾向にあり、平成 21 年度は約
こうしたことから、文部科学省においては、関係省
8万6千m の木材が使用されました。また、公立学
庁と連携し、学校施設における木材利用推進の施策を
校施設について、平成 21 年度は、全棟数の 12 . 4%が
講じています。
木造で整備されており、平成 21 年度に建設された非
3
注)
木造学校施設のうち 51.5%で内装が木質化 されまし
た。
木造の校舎(長野県川上村立川上中学校)
38
木質化された校舎(愛知県名古屋市立植田東小学校)
[文部科学省における取組]
[工夫事例集の要点]
従来から文部科学省では、
林野庁とも連携しながら、
木材を活用した学校施設づくりに関する事例集の作成
や講習会の実施により、地方公共団体が学校施設への
木材利用に積極的に取り組めるよう普及啓発し、
また、
木材を使用した学校施設の整備に対して国庫補助を行
うなど、様々な措置を講じてきました。
平成 19 年 12 月には、木を活用した学校施設の整備
に関する手引書「あたたかみとうるおいのある木の学
校 早わかり木の学校」を作成しました。計画から建
設後のメンテナンスまで、木材を活用した学校施設づ
くりに関する留意点について解説しています。
「こうやって作る木の学校」
また、文部科学省と林野庁で連携し、
「学校の木造
設計等を考える研究会」
(主査:長澤悟 東洋大学理
工学部建築学科教授)において、
「こうやって作る木
の学校~木材利用の進め方のポイント、工夫事例~」
(平成 22 年5月)を作成しています。
本工夫事例集は、
主に地方公共団体の職員を対象に、
特に課題として挙げられている木材利用の検討の進め
方や、コストの抑制の方法を中心に、その留意点や工
夫した取組事例をまとめています。
木材利用の取組は、
地域の実情に応じて進め方が異なります。他の地方公
共団体の取組や工夫の仕方から、参考となる情報を見
つけ出していただきたいと考えています。
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《参考》
「こうやって作る木の学校」の構成
「こうやって作る木の学校~木材利用の進め方のポイン
ト、
工夫事例~」
(平成 22 年5月 文部科学省・農林水産省)
および「あたたかみとうるおいのある木の学校 早わかり
■木材利用の意義と効果
木の学校」
(平成 19 年 12 月 文部科学省)は以下のホー
木材は、やわらかで温かみのある感触を有するとと
ムページにて閲覧できます。
もに、室内の湿度変化を緩和させ、快適性を高める等
文部科学省ホームページ http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/
mokuzai/1284978.htm
の優れた性質を備えています。特に、建築仕上材とし
て、適所に木材を使用することにより、温かみと潤い
39
公共建築物等における木材の活用
のある教育環境づくりができます。また、木材を利用
することで、環境負荷低減や森林の保全、地域の文化
の継承、地域の活性化につながり、児童生徒の学習に
活用することもできます。これらの効果は、木造校舎
だけでなく、内装が木質化された校舎においても、同
様に期待できます。
■木材利用の目的の明確化と共通理解
木材を活用して学校施設を整備する際には、何を目
的として木材を利用するのかを明確にし、関係者間の
共通理解を図ることから始めることが重要です。林産
地域、都市部等、地域の状況により木材を利用する目
的は様々です。
関係者間で共通理解を持つためには、行政、材料供
給、設計、施工、教職員、児童生徒、PTA、地域住
民等の関係者による検討組織を整えることが重要で
す。人数が多くなり過ぎる場合等には、専門部会や
ワークショップを設けることも、実質的な議論を進
め、理解を深めるために有効です。また、関係者間で
は使用材料(製材品/集成材)や使用目的(地域材/
木材一般)
、品質や強度を確保するための方法等につ
いて、合意形成することが重要です。こうした取組に
より、学校が地域コミュニティの核としての役割を果
たすきっかけにもなります。
■木材を利用する学校づくりの進め方
学校施設の木材利用を行うためには、まず、敷地の
広さや防火上の規制から必要となる防火性能を確認し
た上で、大量の木材の確保方法、コストなどについて
検討することになります。都市部などにおいて大量の
木材の調達が困難であったり、法規制上、木造化が困
難である場合でも、内装を木質化することにより、木
材の良さを生かした教育空間を実現できます。
検討の進め方は、市町村有林を伐採して利用する場
40
事業スケジュールの目安
合や地元の森林を伐採して利用する場合、流通材を利
業において、地域の実情等に応じ、組み合わせて採用
用する場合など、地域によって異なります。
することが効果的です。
■コストを抑えるための設計上の工夫
■木材を利用した学校づくりに関する今後の課題
木材を利用した学校施設の整備は、心理・情緒面へ
木の学校づくりを着実に進めていく上で、学校関係
の効果、環境負荷の低減、地域経済の活性化など、幅
者のみならず、自治体、森林組合、民間業者等が地域
広い意義や効果があるため、総合的に費用対効果を考
一体となった連携が不可欠です。木材調達から建設ま
えた検討が必要です。
での体制づくりにおける今後の課題として、木材利用
木材を利用する場合の建設コストは、木造による整
が進む社会システムづくり、コンサルティング的役割
備事例が他の構造と比べて少ないことや、木造とする
を担う組織の形成、規格材の流通促進による価格情報
ために建築計画的に特殊な構造となることが多いこと
の提供と効率的な積算手法の確立等が考えられます。
等により、
現状では一般に高くなる傾向がありますが、
木材調達や設計を工夫して行うことにより、建設・維
[最後に]
持管理のコストを抑えることが可能です。
木材利用の取組は、地域の実情に応じて進め方が異
合理的な構造・架構形式の選択や一般流通材の活用、
なります。しかしながら、関係者と連携しながら検討
木を使い切り、歩留まりを向上させる工夫など、各事
を進めることにより、木材利用はどの地域でも十分に
可能です。今後は「公共建築物等における木材の利用
の促進に関する法律」の趣旨も踏まえ、地方公共団体
全体として、木材を活用したあたたかみと潤いのある
学習環境づくりに一層取り組まれることが期待されま
す。
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注)内装が木質化された施設とは、平成 21 年度に整備された
公立非木造学校施設の全面積のうち、
床を 50%以上、
かつ、
壁又は天井を木質化している施設の面積の割合。
コストを抑えて整備するための設計上の工夫
木の教室空間(佐賀県佐賀市立小中一貫校北山校)
41
木造公営住宅等の取組みについて
国土交通省住宅局住宅総合整備課
指導・審査技術係長
比嘉規晶
※2
1 はじめに
また、公共住宅事業者等連絡会
においては各事業
主体が木造公営住宅の企画、計画、設計、積算等を円
我が国では、豊かな森林資源を背景として、生活と
滑に進めることができるよう
「木造住宅設計手引き書」
木材とが密接に関連した固有の木の文化が育まれてお
を取りまとめるなど、地域の振興、地場産業の育成に
り、住宅においてもストック全体の約3分の2を木造
寄与する木造公営住宅等の建設を積極的に促進してい
住宅が占めている。
るところである。
木材は、大気中の二酸化炭素を炭素として貯蔵し、
今後ともそれぞれの地域の実情に即した魅力ある木
地球温暖化防止につながること、他の建築材料よりも
造公営住宅等の整備を行っていくために、地方公共団
製造に係るエネルギーが少ないこと、さらには地場産
体に対し、次の事項についての検討をお願いしている
材を活用することにより輸送に係るエネルギーが節減
ところである。
できること等から、環境負荷が少なく、環境問題に対
① 低層の公営住宅等については、建築規制により木
応した材料であると言える。我が国の住文化や街並み
造とすることができない場合を除き木造とし、3階
は、本来、木造住宅を基本として育まれてきたもので
建ての公営住宅等についても木造住宅とするよう検
あり、木造住宅団地の整備は、地域の気候、風土、環
討すること。
境に調和した地域独特の住文化や多彩な景観を創造す
② 集会所の整備についても、木造とするよう検討す
る。さらに、木造住宅の整備推進は地域の大工・中小
ること。
工務店の活用、林業・木材産業の振興につながり、地
③ 外構整備に際して、木製ファニチャーの採用を検
域経済効果の高い政策と言える。
討すること。
このため、地域の実情に即した魅力ある木造公営住
さらには、木造住宅の寿命を森林再生サイクル以上
宅等
※1
の推進に取り組んでいくことが必要である。
2 取組方針
国土交通省においては耐久性の高い良質な木造公営
に伸長させ、二酸化炭素の放出量削減・固定量拡大、
木くず等建設廃棄物排出量の削減を図ること(木造住
宅の長寿命化)が求められているが、今後各地域にお
いてもこのような課題への対応をお願いしていく。
住宅等について交付対象額の増額を行うとともに、木
造公営住宅の魅力や、耐久性・耐火性の向上、遮音性
の確保、コストの抑制等の工夫に関する事例紹介等を
内容とするパンフレットの作成・配布等により、木造
公営住宅の普及を図ってきたところである。
42
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※ 1 公営住宅等とは、公営住宅、特定公共賃貸住宅、地域優
良賃貸住宅の一般型(公共供給)を指す。
※ 2 公共住宅の建設に携わる都道府県、政令指定都市、独立
行政法人都市再生機構、地方住宅供給公社及び独立行政法人
住宅金融支援機構等により構成された組織
3 普及に向けた課題への取組み
木造公営住宅等における課題としては、鉄筋コンク
い窯業系サイディング材を採用する等の取組みが行わ
れている[写真 -1]
。
(2)遮音性向上の確保への取組み
リート造と比べて、耐久性・遮音性能が低い、耐火性
共同建ての場合、木造は鉄筋コンクリート造ほど躯
能が確保しにくい、3階共同建てだと建設コストがか
体の遮音性能が高くないため、界床をコンクリートと
かる等があげられる。これらの課題に対応するため、
したり、界壁に高性能の耐火遮音間仕切りを利用する
木造公営住宅等の普及に向けて様々な工夫をした取組
等の工夫がみられる[写真 - 2]
。
みがなされているので、その一部を紹介する。
(1)耐久性向上への取組み
(3)耐火性能の確保への取組み
木造3階建ての共同住宅の場合、主要構造部を準耐
外装材に木材を利用している木造公営住宅では、風
火構造とするため、柱・梁等の準耐火性能(1時間)
雨による塗装の劣化進行が鉄筋コンクリート造より早
が必要となる。耐火性能を確保するための取組み事例
い傾向にあるため、庇を長く出して雨掛りを少なくし
としては、柱・梁の断面寸法を大きくする「燃えしろ
たり、風雨や日光の直射量が多い部位は、劣化しにく
設計」があり、通常の火災時の過熱に対して耐力の低
下を防止するとともに、柱・梁を室内に見せることで
窯業系サイディングの妻外壁
木造住宅らしさも表現できる[写真 -3]
。
(4)建設コスト抑制への取組み
木造3階共同建てでは、鉄筋コンクリート造より建
設コストが高くなる場合がある。コストを抑えるため
の工夫としては、内外装への地域材の活用について、
写真 -1 外壁の耐久性を高めるため、妻外壁は窯業系サイディングと
した事例
写真 -2 コンクリート床を大断面集成材の柱・梁で支える住宅
( 工事中の写真 )
写真 -3 「燃えしろ設計」により、柱・梁を室内に見せることで、
木造らしさを表現した事例
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公共建築物等における木材の活用
表 1 木造3階共同建てと鉄筋コンクリート造の建設コスト比較
使用木材のグレードや使用範囲を、費用対効果の観点
シェアが下落している理由としては、平成 19 年度に
から検討して絞り込みを行う等がある[表 -1]。
小規模な市町村の建替えが重なったものが平年ベース
4 地方公共団体における整備状況
に戻ったこと、地方予算が付かずに建替え予定が改修
に変更になったことなど、個別の要因が重なったこと
近年、公営住宅等については、地方公共団体におけ
によるものと考えられる。
る財政上の制約等により、新規建設・建替え等の整備
なお、平成 12 年度から平成 21 年度にかけての 10
事業から既存公営住宅等の改善事業にシフトしつつあ
年間においては、低層公営住宅に占める木造のシェア
り、これにともない供給戸数も減少傾向にあり、平
は、平成 17 年度から平成 19 年度の 3 年間を除き、概
成 19 年度と平成 21 年度を比較すると、供給戸数は約
ね 55%前後とほぼ横ばいで推移している[表 -4]
。この
700 戸減少している[表 -2]
。さらに、整備事業におい
ては建替えが大部分を占めるが、地方公共団体への聞
表 2 公営住宅等供給実績等
き取りによると、既成市街地における建替えについて
は中高層住宅のシェアが高まっているところである。
これらの理由により、基本的に低層住宅として整備さ
れる木造公営住宅等の供給戸数が減少しているものと
考えられる。
また、低層公営住宅等に占める木造のシェアは、平
成 19 年度に比較して平成 21 年度は、6 0. 3%から約 6
ポイント減少している[表 -3]
。低層公営住宅等の木造
表 4 低層公営住宅供給実績等
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表 3 低層公営住宅等供給実績等
ことから、平成 17 年度から平成 19 年度の 3 年間にお
する法律案において、公営住宅の整備基準を条例に
いて、平年より木造率が向上し、平成 21 年度は平年
委任するなど、地域の実情に即した木造住宅整備を
ベースに戻ったものと考えられる。この 3 年間にシェ
より行い易くするとともに、
アが高まった主な要因としては、震災時の災害復旧住
(2)今年度創設した社会資本整備総合交付金を通じ、
宅や、比較的規模の大きい建替事業における木造住宅
木造公営住宅を含め、地域の発意に基づいた公営住
の積極的な採用などが考えられる。
宅の整備等に対し、より柔軟な助成を行うこととし
5 今後の取組み
ている。
今後とも、地域の特性に対応し、木造によるメリッ
木造公営住宅については、地域材を活用することに
トを活かした公営住宅の供給がより一層普及するよ
よる地域産業の活性化、
「木の暖かみ」が感じられる
う、必要な支援、情報提供等に努めてまいりたい。
快適な室内環境の確保、さらには地球環境問題への対
応など副次的な効果があることから、その建設を促進
することは重要な課題であると認識している。
このため、国費による助成対象となる建設単価の引
き上げや、耐久性向上を図る場合の助成対象額の上乗
せなど支援内容の充実とともに、木造公営住宅の魅力
や事例紹介等を内容とするパンフレットの作成・配布
等により、木造公営住宅の普及を図ってきた。
さらに今後は、
(1)平成 22 年 11 月現在、継続審議となっている地
域主権改革の推進を図るための関係法律の整備に関
●粟生住宅 【石川県能美市】
・竣工年度:平成 21 年度
・構 造:木造平屋建て
・整備戸数:11 棟 22 戸
●材木町住宅 【岩手県遠野市】
・竣工年度:平成 20 年度
・構 造:木造平屋建て、2 階建て
・整備戸数:6 棟 12 戸
●須母田団地 【岐阜県中津川市】
・竣工年度:平成 21 年度
・構 造:木造 2 階建て
・整備戸数:1 棟 6 戸
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木材利用の促進に向けた国土交通省官庁
営繕部の取組みについて
国土交通省官庁営繕部整備課
営繕技術基準対策官
山田 稔
●地方公共団体の責務
1 はじめに
地方公共団体は、国の施策に準じて必要な施策を策
平成 22 年 5 月に公布された「公共建築物等におけ
定・実施するよう努めるとともに、その整備する公共
る木材の利用の促進に関する法律
(法律第 36 号。以下、
建築物において、木材の利用に努めることが規定され
『木材利用促進法』という。
)
」が平成 22 年 10 月 1 日
ました。
に施行されました。また、法第 7 条第 1 項の規定に基
●基本方針の策定
づき、
「公共建築物における木材の利用の促進に関す
農林水産大臣及び国土交通大臣は、国が整備する公
る基本方針(農林水産省、国土交通省告示第 3 号。以
共建築物における木材の利用の目標等を明らかにする
下、
『基本方針』という。
)
」が平成 22 年 10 月 4 日に
ために、木材の利用の促進に関する基本方針を定め、
策定されました。本稿では、法及び基本方針の概要と
その実施の状況を毎年公表することが規定されまし
ともに、国土交通省官庁営繕部において進めている木
た。また都道府県や市町村においても、国の基本方針
材利用の促進の取り組みについて紹介します。
に即して、それぞれの区域内の公共建築物における方
2 法律の概要
針を定めることができることが規定されました。
●木材製造高度化計画の認定等
木材利用促進法は、平成 22 年 3 月 9 日に政府提出
木材製造高度化計画について、農林水産大臣の認定
法案として衆議院に提出され、国会審議の過程で、木
を受けた場合には林業・木材産業改善資金助成法の特
材の利用に建設資材のみならず工作物の資材や製品の
例等の支援措置を受けることができること等が規定さ
原材料及びエネルギー源としての利用を含めること、
れました。
国の責務として木造の建築物に係る規制の在り方の検
討を加えること、取組状況の公表の義務化などの修正
3 基本方針の概要
が加えられた後、衆参両院において、全会一致で可決
基本方針の中では、木材の利用を図る具体的な範囲
されました。なお、法律の概要は以下のとおりです。
やその目標などが規定されています。基本方針の概要
●国の責務
は以下のとおりです。
国は、自ら率先してその整備する公共建築物におい
●各省庁は、木材の利用の促進のための計画を速やか
て木材を利用することや、木材製造の高度化の促進そ
に策定して施策を効果的に推進するとともに、農林水
の他の公共建築物の整備等の用に供する木材の適切な
産省及び国土交通省は、国の木材の利用の目標の達成
供給の確保のために必要な措置を講ずること等に努め
状況等を毎年公表する。
ることが規定されました。
●建築材料としての木材の利用はもとより、建築材料
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以外の各種製品の原材料及びエネルギー源としての木
材の利用も推進。また、木材の利用の促進に資するた
め、
人材育成、
技術開発、
調査研究等の実施等に努める。
4 国土交通省官庁営繕部の取組状況
(1)これまでの取り組み
●建築基準法その他の法令に基づく基準において耐火
公共建築物は広く国民の利用に供されるものであ
建築物とすること又は主要構造部を耐火構造とするこ
り、そこに木材を利用することによって、より多くの
とが求められていない低層の公共建築物において、積
国民に対して、木と触れあい、木の良さを実感できる
極的に木造化を促進するものとする。ただし、災害時
機会を幅広く提供することは大切なことと考えます。
の活動拠点室等を有する災害応急対策活動に必要な施
官庁営繕部では、これまでも内装への木材利用等を進
設、刑務所等の収容施設等のほか、伝統的建築物その
めてきたところです。その整備する公共建築物におい
他の文化的価値の高い建築物など、当該建築物に求め
て、
国自らが率先して木材を活用していくことにより、
られる機能等の観点から、木造化になじまない又は木
国のみならず、地方公共団体にもその普及を進めてい
造化を図ることが困難であると判断されるものについ
くうえで、今後、より一層、その取り組みを進めてい
ては木造化を促進する対象としないものとする。 くこととしています。
●国は、積極的に木造化を促進する公共建築物の範囲
(2)計画・設計基準の整備
に該当する低層の公共建築物について、原則としてす
これまで、官庁営繕部における公共建築物の整備に
べて木造化を図るものとする。また、その整備する公
ついては、主として鉄筋コンクリート造、鉄骨造で建
共建築物について、高層・低層にかかわらず、エント
設が進められてきたこともあり、官庁営繕部の技術基
ランスホール、情報公開窓口、広報・消費者対応窓口
準についてはこれらの構造を前提に記述されていまし
等のほか、記者会見場、大臣その他の幹部職員の執務
た。木造で戸建て住宅を建設する技術的な手法、ノウ
室など、直接又は報道機関等を通じて間接的に国民の
ハウはすでに確立され、普及しているところですが、
目に触れる機会が多いと考えられる部分を中心に、内
一方、木造の事務所用途の建築物については、あまり
装等の木質化を図ることが適切と判断される部分につ
事例も多くありません。木造事務所庁舎の建設にあ
いて、内装等の木質化を促進するものとする。さら
たっては、一般的にスパンが大きくなることに加え、
に、その整備するすべての公共建築物において、木材
省エネルギー性や耐久性への配慮、重量のある什器・
を原材料として使用した備品及び消耗品の利用を促進
設備機器の積載荷重の考慮等、さまざまな技術的な課
するほか、暖房器具やボイラーを設置する場合は、木
題を検討しなければなりません。このような状況を踏
質バイオマスを燃料とするものの導入に努めるものと
まえ、木造での施設整備の技術的な検討が円滑かつ効
する。
率的に進むよう、官庁営繕部においては、木造の官庁
●公共建築物における木材の利用の促進を図っていく
施設を対象とした計画・設計基準を本年度中に策定予
ため、各省各庁間の円滑な連絡調整や、公共建築物に
定です。官庁営繕部が策定する技術基準は、国のみな
おける木材の利用の促進に向けた措置の検討等を行う
らず地方公共団体でも幅広く活用されていますので、
関係省庁連絡会議を設置する。
基準の策定により、地方公共団体における公共建築物
の木造設計の円滑化、効率化にも資するものと考えて
いるところです。 47
公共建築物等における木材の活用
当該基準に係る様々な技術的事項を検討するにあ
たっては、有識者による「木造計画・設計基準検討会」
5 終わりに
(座長:大橋好光 東京都市大学工学部建築学科教授)
木材は、我が国で古来より主要建築材として利用さ
が設置され、議論が行われています。本検討会で、基
れてきましたが、戦後は都市の不燃化等の要請から、
準案が取りまとめられた後、これを受けて、国土交通
非木造化が指向されてきた傾向があり、特に公共建築
省において「木造計画・設計基準(仮称)
」を策定す
物においては、必ずしも木材の利用が推進されてこな
ることとしています。
かった実情があります。
(3)情報提供
木材利用促進法の成立により、木材利用についての
木材利用促進法の成立を受けて、法文や関連する情
これまでの考え方を抜本的に変換し、その整備する公
報を提供するためのホームページを開設しています。
共建築物について、自ら率先して、可能な限り木造化、
このなかでは、政令や基本方針等に加えて、上記検討
内装等の木質化を図るという方向性が明確にされまし
会での議論の状況についても、随時公開を行っていま
た。これを契機に、公共建築物における木材の利用を
す。
最新の情報は以下のホームページでご確認下さい。
促進するとともに、日本人が古来より慣れ親しんでき
た「木」の良さを、より身近に国民の皆様にも感じて
・国土交通省大臣官房官庁営繕部
いただけるよう、そしてそれにより木材の利用がより
http://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_
一層推進されるよう、官庁営繕部としても、関係機関
fr4_000002.html
と連携を図りながら、様々な取組を推進していきたい
と考えています。
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ダウンロード

公共建築物等における 木材の活用